5,Wish.










 大地を揺るがすような地響きの中、悪夢に魘され天地が引っ繰り返るような錯覚と共にルビィは目を覚ました。
 寝惚け眼を擦って周囲を見回すが、ダイヤのベッドは蛻の空となり、窓の外からは人々の悲鳴が耳を劈くように響き渡っていた。夜の筈が紅い光に照らされる窓辺にダイヤが立膝で虚ろな眼を向けている。剣を腰に差す様は臨戦態勢にようだった。平穏でない状況にルビィがベッドを抜け出すと、黙り込んでいたダイヤが漸く口を開いた。


「お前、随分と神経が図太いんだな」
「悪かったわね……」


 ダイヤを睨みつつ、窓の外を覗く。静寂に満ちていた筈の町は猛火に包まれ、人々は家財を抱えて逃げ惑っていた。
 息を呑んだルビィに、ダイヤは無表情に言った。


「魔王軍が攻めて来たんだ。直に戦となるだろう」


 その言葉と同時に、街路を叩く重厚な鎧の音が響き出した。悲鳴が消え、人々の歓喜の声が上がる。列を成して行進して行くのはクオーツ率いるアリザリン軍だ。その後列にいるのは恐らく彼が作り出した魔族と配合された奴隷の軍。鉄仮面の下にどれ程に醜悪な顔があるのか、鎧の下にどれ程に異様な肌が広がっているのか。雅やかな宮殿の地下で行われていたあの狂気に満ちた研究施設で生み出された彼等を思い出し、ルビィは身震いした。
 町民の応援に応えるようにクオーツが片手を上げる。国旗である赤い旗は夜風に靡いていた。
 ダイヤは窓から飛び出した。突然の行動にルビィは慌てて後を追うが、ダイヤは翼を広げてクオーツの横に並んだ。


「砂漠に移動しろ。此処を戦場にしてはならない」
「そんなことは解っている」


 クオーツは当然のように言い捨てて、ダイヤを一瞥することもなく前だけを見て歩いて行く。如何にかルビィが追い付くと、ダイヤは翼を畳み、石畳の上に降り立った。
 逃げ惑うばかりだった人々の目に希望が映る。戦場に赴く戦士に送られるエールと期待の眼差し。小さくなっていくアリザリン軍を見送りながらルビィは問い掛けた。


「ダイヤは如何するの?」
「そうだな。巻き添えにされるのも御免だから、この町から離れようか」


 平然と話すダイヤに、ルビィは思わず声を荒げた。


「この町を放っておくの?」


 迫る戦に浮足立つ民衆と、死地へ赴くクオーツと、異形の戦士達。目の前で起こる事態を他人事と傍観を決め込むダイヤに苛立ったのだ。
 ダイヤは強い。ルビィの村を襲った魔王四将軍の内一人、ガーネットの軍勢をたった一人で食い止める程の強さを持ちながら、剣を手にすることも人々を守ろうと導くことも無く、戦火の届かぬ場所へ避難しようとしている。それは余りにも無責任に思えた。
 だが、ダイヤはすっと目を細め怪訝そうにルビィを見た。


「じゃあ、俺に如何しろって言うんだ。人間の味方をして魔族を殺せと?」
「……違う! そんなことは言ってない!」
「魔族の俺に、人間を助ける義理は無い。そうだろう?」


 その通りだ。ダイヤは聊か冷たいけれど人間のように振る舞うから、忘れてしまっていたが、魔族――それも魔王の末子なのだ。同族である魔族に加勢することはあっても、剣を向けることなど有り得ない。そう思うのに、ルビィの中に浮かぶダイヤは自分を守ってくれた背中ばかりだ。


「なら、如何してあの時、あたしを助けてくれたの?」


 村で迫害され、謂れの無い暴力を受けても尚、人間を守ろうと満身創痍になって駆け回っていたのもダイヤだ。
 矛盾するダイヤの行為が、考えがルビィには解らない。だが、ダイヤはそれをたった一言で切り捨てた。


「ただの気紛れだ」


 ダイヤの向ける青い瞳に、何の感情も宿ってはいない。当たり前のことを当たり前に言い放つダイヤに、ルビィの考えなど欠片も伝わっていないだろうし、気付こうともしないのだろう。ダイヤが解らない。冷たいのか、優しいのか、勝手なのか、自己犠牲なのか。


「お前はお前の好きにしろ。俺はお前に付いて来いだなんて一度だって言ったことは無い」
「そうだけど……!」
「俺を頼りにしてるなら、それは間違いだぞ。俺はお前の味方じゃない。身に掛かる火の粉を振り払っているだけだ」


 冷たく言い捨てたダイヤが背中を向ける。
 そんなのは嘘だと叫びたかった。自分勝手という言葉だけではダイヤを表現し切れない。苛立ちも無ければ悲しみも無い。恐怖も無ければ落胆も無い。在るのは興味の失せたがらんどうの瞳だけだ。ルビィが掛ける言葉を模索していると、ダイヤは黙って再び翼を広げた。闇夜に映える白亜の翼に民衆がざわめく。けれど、ダイヤは振り向くことも周囲を見渡すこともなく飛び立ってしまった。舞い落ちる数枚の羽根が石畳に薄い影を落とす。
 戦闘が始まったのだろう。激しい怒声と咆哮、金属のぶつかり合う音と悲鳴。戦場の雑音が波のように町に押し寄せ、或る者は膝を着いて祈り、或る者は家財を抱えて逃げ惑い、或る者は家の影に隠れ、或る者は戦火の届かぬ場所で傍観している。迫り来る魔王軍と戦っているのはあの異形の戦士達だろう。戦いに何の疑問も覚えぬよう洗脳された人形。
 足元にナイフが転がった。護身用にと町民の誰かが抱えていた者だろうが、逃げ惑う彼は気付くことなく立ち去ってしまった。ルビィは鈍色の刃を見下ろし、映り込む自分の漆黒の瞳を睨んだ。
 ダイヤの言っていることは間違っていない。間違っているのは、自分だ。中途半端な正義感をダイヤに押し付けて、自分こそ戦火の届かぬ場所で杞憂しているだけ。剣一つまともに振るったことも無いのに、ダイヤには魔王軍と戦って欲しいと望む。なんて勝手で、なんて愚かで、なんて醜悪で、なんて狡猾なのだろう。ルビィはナイフを拾い上げた。生まれて初めて握る刃は想像以上に重かった。ダイヤの携える剣はもっと重いのだろうと思った。


 戦場は苛烈を極めている。少数ながら魔族と同等の力を持つ異形の戦士達を先頭に、アリザリン軍が圧していたかと思えば魔王軍は両翼を広げ、展開し始めた。動きの俊敏さでは人間は魔族に勝てない。前後左右に包み込まれたアリザリン軍の敗北は目の前だった。勝負が付いたからと言って、魔王軍は攻撃の手を緩めたりしない。彼等はこの町を占領下に置きたいのではなく、人間を殲滅したいのだ。アリザリン軍が殲滅されれば次は町民を老若男女問わず虐殺するだろう。
 ルビィは、戦場と町を隔てる巨大な城門の前に立っていた。戦場の悲鳴が、怒号が鮮明に聞こえる。自然と震える体を抑え込み、ルビィはナイフを握る。


――何故、自分で考えない?


 何時か、ダイヤはルビィにそう問い掛けた。村では掟に従うことは生きることだった。考える必要なんて無く、与えられる仕事とノルマを熟していくだけが生活の全てだった。
 だが、それは違うのだ。それでは、あの異形の人形戦士と何も変わらない。
 人間だからとか、魔族だからとか、そんなのは関係無い。けれど、何の罪も無い人々の生活が、命が強者によって当たり前に奪われることは間違っている。どんな命にだって生きる権利がある筈だ。例え魔族が人間を殺す為に生まれた存在だとしても。
 城門には兵士が数人、そわそわと戦況を窺いながら右往左往するばかりだった。ナイフを持つルビィに気付く様子も無い。だが、その時。
 ざわりと、悲鳴にも似た声が背後から上がり、ルビィは振り返った。
 艶やかな黒髪を夜風に靡かせ、宝玉のような紅い瞳は煌々と、一切の迷いの無い足取りで此方へ向かう異形の人影。ぴんと張られた三角形の耳は月光を浴びて銀色を帯びていた。いる筈の無い魔族に民衆がざわめき、後ずさる。


「コーラル……」


 コーラルはルビィを見て微笑むと、城門の前に立った。武器を向ける兵士になど見向きもせず、鋭く伸びた爪を持つ右手を広げた。
 そして、一瞬。町を守っていた筈の城門はいとも容易く切り裂かれ、轟音と共に戦場を露わにした。想像以上に苛烈を極めた戦場は地獄絵図だった。飛び散る血液にルビィの足が竦む。コーラルはルビィの持つナイフを一瞥し、問い掛けた。


「戦うの?」


 ルビィは首を振った。


「守りたいの。この町の人を」


 その為に握ったことも無い武器を握ったのだ。はっきりと答えたルビィに、コーラルは微笑んだ。


「そう。解ったわ。でも、貴方は此処にいなさい」
「如何して……!」
「貴方に出来ることは何も無いから」


 そんなことは解っている。それでも退けないルビィに、コーラルは背を向けた。
 戦塵に呑まれるコーラル。同時に大勢の魔族の悲鳴が響いた。舞い上がる戦塵の中、影を縫うように黒い閃光が走り抜ける。人間には不可能な速度で、動きで、同じ魔族でありながらコーラルは自らの肉体だけで圧倒していく。突然現れた敵に魔王軍の隊列が乱れ、アリザリン軍が雪崩れ込む。戦局が覆ろうとしている。
 優しく微笑み、子どものように無邪気なコーラルも魔族だ。人間を殺す為に生まれた存在。他者を傷付ける為に持った力。本能のままに戦場を駆ける姿は正に鬼か夜叉。彼女が敵であっても味方であっても、民衆は魔族というだけで恐怖し逃げ惑う。兵士の手引きで民衆は宮殿内へと避難を始めた。ルビィは振るわれることの無いナイフをただぶら下げ、魔族を一撃の元に仕留めて行くコーラルを見詰めていることしか出来なかった。
 その一瞬。戦塵を切り裂くように一本の矢がコーラルの背に突き刺さった。体制を崩したコーラルが倒れ込む。途端に振り上げられた刃を寸でのところで躱すが、それまでと明らかに鈍った動きに魔族が一群となって襲い掛かる。クオーツが声を上げた。


「退け!」


 アリザリン軍は待ってましたとばかりに敗走を始めた。殿には動きの鈍くなったコーラルが、血塗れで爪を光らせている。
 街路を駆け抜けていくボロボロの兵士達。ルビィはいないもののように無視され、衝突されながらもコーラルを茫然と見ていた。
 ぞろりと立ち並ぶ魔王軍に、たった一人向き合うコーラル。クオーツは既に兵を率いて退いている。自分達に牙を向いたコーラルを、魔王軍は生かしては置かないだろう。コーラルも既に腕を振り上げることすら苦しそうなのに、その場から逃げようとはしない。
 敗走するアリザリン軍の上に、一枚の羽根が舞い落ちた。兵を率いていたクオーツは不意に顔を上げ、其処に人ならざる者の存在を確認すると共に駆けていた馬の足を止めた。ダイヤは感情を読ませぬ無表情でクオーツの前に降り立ち、羽根を畳むと真っ直ぐに青い瞳を向けた。クオーツの停止により、兵士もまた足を止める。ダイヤは言った。


「何処に行くんだ?」


 淡々としたダイヤの声に、クオーツがぐっと押し黙る。ダイヤはその答えを待つ間も無く問い掛けた。


「逃げるのか? コーラルはまだ、戦ってるぞ」
「……そんなことは、解っている……!」
「コーラルを見捨てるのか?」


 尚も問い掛けるダイヤに、苛立ったようにクオーツが叫んだ。


「違う! だが、俺はこの国の王だ! 民を守る義務がある!」
「――その民に、コーラルは含まれないのか?」


 クオーツは何も言い返さなかった。否、言い返す言葉を持っていなかった。
 だが、そのクオーツを弁護するかのように満身創痍の兵士が口々に言った。


「所詮、人間と魔族は相容れぬ」
「化物同士の戦いだ。我々にどうにか出来るものではない……」
「……お前も同意見か、クオーツ」


 青い瞳に落胆の色を滲ませて、ダイヤは問い掛ける。


「俺はこの戦争の勝敗に興味は無い。関与する理由も無い。だが……、コーラルはお前を信じていたぞ」


 ダイヤは目を伏せた。どちらの味方をするつもりも無い。ゆっくりと翼を広げ、宙に浮かび上がったダイヤは道を空けた。暫しの沈黙の後、クオーツは固く目を閉ざす。そして、その漆黒の瞳が現れると同時に全ての迷いは消え失せ、宮殿へと向かって走り出していた。ダイヤは敗走するアリザリン軍を見下ろし、コーラルがいるだろう戦場へと羽ばたいた。
 魔王軍の侵攻が止まっている。敗走するアリザリン軍を追撃しない理由は無い。
 ただ一つの理由を、除いては。
 崩された城門の前に影が一つ伸びる。黒い長髪は月光を反射し、魔王軍はじりじりと距離を詰めるが攻撃することが出来ずにいる。一歩でも間合いに踏み込めば殺すと、まるで人形のように項垂れたコーラルが爪を向けていた。紅い瞳は虚ろで、最早敵の姿など見えてはいないだろう。ダイヤはその様を上空から見下ろしている。
 こんなものは一時凌ぎだ。戦力で圧倒する魔王軍を相手にたった一人で、勝算がある筈も無い。小さな爪で、細い腕で、傷だらけの体で何を守ろうと言うのだろう。ダイヤが羽ばたく度に白い羽根が舞い落ちる。その時、声がした。


「ダイヤ!」


 叫んだのはルビィだった。上空のダイヤに呼び掛けると、黙って降下を始めた。
 ダイヤはコーラルの背中を見ていた。


「ずっと、このままか?」
「――え?」
「コーラルはずっと、このまま戦い続けているのか?」


 ルビィは、頷いた。他に答える術が無かった。ダイヤの目の光は無かった。怒りも悲しみも無く、在るのはただの空しさだけだ。
 ダイヤは剣に手を伸ばした。だが、その時、遥か後方から乾いた蹄の音が響き渡った。


「コーラルッ!」


 呼び掛けに反応するようにコーラルの肩が震えた。風のようにクオーツが駆け抜ける。来る筈の無い存在、いる筈の無い男。馬と一体になって剣を抜き放ち、崩れ落ちようとするコーラルを支えた。途端に魔王軍は各々の武器を携え雄叫びを上げた。クオーツはコーラルを支えながら剣を向けている。
 一斉に襲い掛かる魔王軍。ルビィが叫ぶより早く、ダイヤは剣を抜き放っていた。
 一閃――。銀色の閃光が、魔王軍には見えただろうか。ルビィは元より、クオーツやコーラルにもただ魔王軍が倒れ込んだようにしか見えなかった。薙ぎ倒された魔王軍に戦慄が走る。剣を構えたダイヤを知らぬ者が、魔王軍にいる筈も無い。


「――ダイヤ様だ」
「馬鹿な、如何してこんなところに」
「本物か?」
「だが、あれは間違いなく――」


 口々に囁き合う魔王軍を睨み付けるダイヤの瞳には鬼気迫るものがあった。常軌を逸したその剣技に敵う者はいない。
 どよめく魔王軍に、ダイヤは声を張り上げた。


「この国に手を出すな! これ以上の侵攻は、俺に剣を向けるものと思え!」


 ダイヤは一歩も引く気は無い。その中で、将らしき紫色の魔族言った。


「これはサファイヤ様の御意思ですぞ! ダイヤ様こそ、サファイヤ様に抗うおつもりか!」
「――ハッ、兄貴が怖くて放浪なんざ出来るかよ! それより、お前は如何する気だ?」
「――!」


 ダイヤから立ち上る陽炎にも似た怒気と殺気に、魔物は息を呑む。
 声にならない声を上げ、将は手を上げた。


「退くぞ!」


 一瞬のざわめきと共に、魔王軍は一斉に後退を始めた。統率の取れた動きにその余力を感じ得ない。宮殿まで退いたところで、殲滅は確実だっただろう。
 紫の魔族は最後に振り返った。


「この件、きっちりとサファイヤ様に御報告させて頂く」
「一昨日来やがれ」


 ダイヤは不敵に笑い、魔王軍はまるで夢でも見ていたかのように跡形も無く消え失せた。
 クオーツは崩れ落ちたコーラルを抱えたまま、その名を呼び続けていた。


「コーラル、しっかりしろ!」


 虫の息であるコーラルが、助かる見込みは万に一つも無いと誰の目にも明らかだった。掛ける言葉を持たないルビィはダイヤに寄り添い、その袖を握った。
 ぽつりと、コーラルの頬に滴が落ちた。


「死なないでくれ……!」
「クオーツ……」


 握っていたクオーツの掌を、コーラルが握り返す。虚ろに開かれた紅い瞳の光は今にも消えそうに儚い。


「何時か必ず……てね……」
「コーラル……?」
「魔族と人間が共存出来る世界……何時か……必ず……」


 噎せ返るコーラルの口から血液が零れ落ちる。
 流れる血も、見えている世界も同じなのに。ただ姿が異なるだけで虐げられ恐れられる。相容れることの無い種族の違い。それでも、コーラルは信じて疑わない。クオーツはその手を握り締めた。涙が溢れている。


「……ああ……! 必ず、創る! そうして世界が平和になったら、一緒に暮らそう」
「クオーツ……、ありがとう」


 握られていた手が、離れた。熱を失った体の心臓は停止したのだろう。閉ざされた目は二度と開かない。


「コーラル……!」


 声にならない絶叫が、響き渡った。明けて行く夜、照らされる町、繰り返し訪れる朝。それでも、死者は蘇らない。
 ルビィは嗚咽を噛み殺しながら、二人を見ていた。頬を幾筋もの涙が伝っている。ダイヤに表情は無い。だが、その目は伏せられ、浮かび上がる感情を押し殺しているようにも見えた。
 誰が悪いのか、如何すれば良かったのか、ルビィには解らない。誰もが皆、自分で考え、自分で責任を負い、自分で選んだ結果だ。誰を恨み憎んでも、何処に思いをぶつけても何も変わりはしない。ダイヤは顔を上げた。


「……俺は行く」


 声には抑揚も無く、表情は死んだように固い。ルビィはその袖を握っていた。


「あたしも……行くよ。付いて行く」


 付いて来いとは、ダイヤは言わない。肯定も否定も示さず、ただダイヤはクオーツとコーラルに背中を向けた。
 ルビィの腕を掴んだその手が震えていたのは、気のせいでは無いだろう。地平線の向こうから太陽が顔を出す。人間と魔族の死に絶えた戦場を照らす朝日の中、ダイヤは飛び立った。


 その後、風の噂で聞いた。
 アリザリンの町の中央には、戦での死者を悼む石碑が立ったことを。そして、その筆頭は魔族であるコーラルという女性であったと――。





2011.11.08