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「和輝、ちょっと付き合ってくれないか」 太陽が傾き始めた夕刻、授業も終わり部活へと向かおうとする和輝を呼び止めたのは夏川だった。教室の扉から半身を覗かせる夏川は、夕焼けを背景に初対面の頃を思い起こさせた。和輝は空になった弁当箱を鞄に押し込みながら、間の抜けた顔で夏川を見る。 「へ?」 「おい、顔」 傍にいた箕輪が和輝に突っ込みを入れる。口を半開きにするその姿は美少年とは言い難い。 「へぇ、何々?」 笑顔を浮かべて興味津々といった調子で和輝は首を傾げる。その何処か子供っぽい仕草に箕輪は苦笑した。 黙っていれば本当に美少年だと思うけれど、この子供っぽい純粋さや飾らない性格がそれを感じさせない。けれど、それが箕輪は好きだった。 夏川は調子を崩されたような顔で答えた。 「三球勝負しようぜ」 はっとしたのは箕輪だった。 「お前、それって……!」 「うん、いいぜ」 何でもない顔で和輝が快諾する。何か言いたそうな箕輪を見て、和輝は笑顔を崩さず言った。 「別に、賭け事をする訳じゃないだろ?」 平然と言った和輝に、夏川は酷く真面目な顔で言った。 「いや、賭けはしてもらう」 「ふーん?」 やはり、態度を崩さないままで和輝は笑う。天真爛漫で単純な性格と思われがちだが、実際はそうではないと夏川は実感する。この男は真っ直ぐな性格ではあるが、愚直ではない。 「投手を賭けて、か?」 和輝の言葉に夏川が頷く。けれど、和輝は苦笑するしかなかった。投手などやりたくないのだと此処で言ってしまえば意味がない。だが、それは事実だ。表面上の笑顔を繕って、和輝は頷いた。 「いいよ」 筆箱を鞄に押し込むと和輝は立ち上がった。 (それで、お前が満足ならな) これは謂わば通過儀礼。夏川がこの勝負を通して投手としての自信を取り戻せるなら構わない。 動揺する箕輪に短く「行こうぜ」とだけ言って和輝は歩き出す。グラウンドまで、三人は無言だった。
湿った風が頬を撫でた。和輝は早々に練習着に着替え、軽く体を解すとバッターボックスに立った。正面のマウンドには夏川。投球練習は既に終えたらしい。入部と退部を賭けて勝負をしてから余り時間が経っていないというのに、随分と昔のことを思い出すような気がした。 金属バットを片手に掲げ、和輝の口元は弧を描く。 (投手なんて願い下げだ。――でも、手加減はしない) それは夏川に失礼だ。 マウンドの上にいる夏川が、とても大きな塔のように感じた。昔は自分の身長の低さに劣等感を抱き、身長の高い投手に恐怖を覚えたこともあった。だが、今は違う。 「――全力で来いよ! 夏川!」 夏川は無表情だ。緊張しているのだろうか、それとも、恐れているのだろうか。 審判に徹している筈の箕輪は何処か不安そうだった。 「プレイボールッ!」 高らかに箕輪の声が響く。周囲では部活の準備をする他生徒たちが何事かと好奇の目を向けた。 だが、周囲に目がいかない様子で夏川はゆっくりと振り被る。身長を生かしたオーバースロー投法は以前と変わらない。けれど。 白い閃光が箕輪のグラブまでの18,44mを一直線に駆け抜ける。掌に収まる程のボールが旋風を巻き起こす。皮を打つ鈍い音が響いた。 「ス、ストライク……」 掌がびりびりと痺れ、箕輪は抑え込んだ筈の白球を落下させてしまった。 バットを振ることもできなかった和輝は目を真ん丸にして転がった白球を見た。以前とは比べものにならない球威と迫力だ。野次馬から感嘆の声が漏れる。 と、そのとき。 「俺が代わろうか」 何時の間に来たのか、萩原が練習着姿で立っていた。すっかり手が痺れてしまっている箕輪はグラブを外し、困ったように眉を寄せている。 取り零したボールを拾い上げ、萩原は箕輪のグラブを受け取った。 「キャッチャーがヘボの割にゃ、良い音させるじゃねぇか」 そういう萩原は何処か嬉しそうだった。グラブを着けながら、萩原はマウンドまで歩み寄る。 「今から俺が捕ってやる。――まだ、本気じゃねぇんだろ?」 無表情に、夏川は頷いた。 「変化球はあるのか?」 「……はい。でも、投げません」 その言葉に萩原がにやりと笑う。 「直球勝負か?」 「はい」 「そりゃ、無茶ってもんだぜ」 むっとしたように夏川が萩原を見る。 「今の球が本気でなくても、和輝は次の本気の球を必ず打つ。速いだけの球なら通用しねぇ。解ってんだろ?」 「それでも」 それでも、和輝は直球で打ち取らなければ意味がない。 夏川の目がそう言っている。そんな心中も、和輝は悟っているだろう。萩原は苦笑した。 「確かに直球には華がある。だがな、変化球ってのは決して逃げではねぇよ」 萩原が言うのは、高槻のことだ。体格故に夏川のような剛速球は投げられない。けれど、速球と変化球、裏をかく配球でどんな強打者も打ち取って来た。 「それとも、変化球に自信が無いのか?」 それは挑発だった。けれど、夏川は興味も無さそうに目を背ける。 萩原の計画では、夏川を二番手の投手にするつもりだった。夏川が乗り気でないのは意外だったが、それもあくまで予想の範疇。結果として夏川は自信回復の為に和輝に勝負を挑んでいる。 この勝負で夏川は自分自身の力で和輝を抑え、投手としての自信を取り戻す。それが萩原の描いたシナリオだ。 夏川は無表情に、はっきりと言った。 「あいつはストレートで打ち取らないと、意味が無いんです」 その夏川の視線の先には、一心不乱に素振りをする和輝の姿があった。何の迷いも無い鋭いスイングの音が、マウンドの上まではっきりと聞こえるようだ。その眼は真剣そのもので、夏川がどんなボールを投げたとしても打ち返すだろう。 「あいつは迷わない。だから、俺が迷えば戦う前から負けることになる」 なるほどな、と萩原は思う。夏川は元来、短気な性格ではない。淡泊ともとれる冷静さを持つ何処か大人びた少年だ。少なくとも、萩原はそう思って来た。だが、その夏川が今、変わろうとしている。 その原因も理由も、萩原は既に知っている。それは萩原とて同じことだからだ。 「……解った。なら、全力で来い」 何かを悟ったように萩原は笑った。 不思議な少年だと思う。萩原の目は、バッターボックスの傍でバットをスイングする和輝を見ている。天才の弟という期待を背負わされて、けれど、それに応えるだけの才能を持ち合わせていて。嫉妬や羨望という醜い感情を向けられながらも真っ直ぐであろうとするその不器用なまでの心の強さこそが、彼の最大の不幸だ。けれど、周囲の人間は彼のその真っ直ぐさに幾度となく救われて来た。 黙ってキャッチャーポジションに戻る萩原の口元は微かに弧を描く。擦れ違いざま、和輝に言った。 「夏川は本気で来るぜ」 「望むところです。俺は、その全力を叩き潰す」 和輝は不敵に笑った。和輝もまた、萩原意図など既に気付いている。けれど、それでも手加減は出来ない。それが彼に対する最大の侮辱と思うからだ。 マウンドで夏川が大きく振り被った。けれど、その吸い込まれそうな気迫に和輝は目を瞬かせる。振り上げられた腕は、以前と変わらずオーバースロー寄りで、その球筋は叩き付けられるようだ。一瞬にして駆け抜けた白球に、和輝はバットを振ることすら出来なかった。 「――ストライクッ」 一切のプロテクターを装着しないまま、微塵も恐怖せずにその球を往なすように捕球する萩原の顔には笑みが浮かぶ。先程までとは異なる何か吹っ切れたような鋭さは、流石としか言いようがない。 鈍い音を立ててミットに収まった白球を、和輝は目を細めて見つめる。無表情ながら、その目に映る光は何処となく昏い。離れた場所で箕輪が息を呑む。野次馬の群れがざわりと揺れる。 笑みを浮かべたまま返球する萩原。夏川は無表情にそれを受け取り、口元を結んだ。再び振り被る夏川をじっと見詰めたまま、和輝は酷く冷静だった。 (――すげぇ、迫力) まるで、自分を呪い殺さんばかりの気迫に背筋が寒くなる。振り上げられた腕から放たれる一筋の閃光が、まるで自分を射殺す為の矢だとでも言うようだ。 重い音がグラウンドに響く。どよめく野次馬の囁きが空気に霧散する。 「ストライク」 カウントは2-0になった。追い詰められたのは和輝だ。 その時、騒ぎを聞き付けた高槻と桜橋が野次馬の群れを掻き分けて姿を現した。けれど、和輝も夏川も萩原も一向に気付かない。何事だと呟きながら、困ったように眉を下げて桜橋は箕輪に歩み寄る。 「何の騒ぎだよ。また、変な賭けでもしてるのか?」 箕輪は首を傾げた。これは和輝と夏川が以前行った野球部への入退部を賭けた勝負ではない。 なら、これは一体何の勝負なのだろうか。全てを見ていた筈の箕輪にも、その答えは解らない。けれど、高槻だけが何か悟ったようにほくそ笑む。 「……カウントは?」 「2-0です」 「はは、押され気味じゃねぇか」 ざまぁねぇな、と高槻が笑った。桜橋が困ったように言った。 「――ったく、萩原がいながら何やってんだか」 「あいつがいるからこそ、だろ。それにしても、随分と威勢のいい音させるじゃねぇか」 高槻は何処か嬉しそうだった。人ごみの隙間から覗いただけの投球だったが、その迫力は以前とは比べ物にならない。それは、夏川の心境の変化が理由だろう。 夏川は今、和輝に勝つ為に投げているのだ。誰かを貶める為でもなく、踏み躙る為でもなく。ただ、勝つ為だけに。それはとても大きな力だ。 萩原は無表情のままバットを構えている和輝を見て、笑った。 「……声も出ないか?」 けれど、和輝もまた――笑った。それは追い詰められた苦し紛れの薄ら笑いではない。嬉しくて堪らないとでも言うような何処か子どもっぽく、無邪気な微笑みだ。 「倒し甲斐のある投手を見ると俺はね、燃えて来るんですよ」 そう、その笑みは期待だ。和輝の脳裏に浮かぶのは負けるという恐怖ではない。目の前の男をどうやって打ち崩してやろうかという期待と、この場所に立っていることへの喜び。 「夏川!」 和輝はバットを掲げた。 「お前の中で渦巻く気持ちを全部、ぶつけて来いよ。――打ち砕くぜ」 掲げたバットの意味はホームラン宣言にも近い。体格故に物理的に不可能なホームランを狙っているのではない。 ほざけ、と夏川が振り被る。和輝は笑みを浮かべたままバットを構えた。そして、三球目の投球。 白い閃光が和輝を襲う。けれど、その瞬間、和輝の目が光った。 バットが振り抜かれたその一瞬、白球は夏川のグラブを叩き落とした。反射的に肩を竦めた夏川の足元に白球が転がり落ちる。 「ピッチャー返し」 高槻が呟いた。 それは酷く屈辱的なことだ。夏川の全力の一球を、真っ直ぐピッチャーに叩き返す。足元に転がる白球を睨む夏川の目は鋭い。 ぐるりとバットを一回転させ、和輝は笑った。 「次はその頭を越えるぜ」 「言ってろ、チビ」 忌々しそうな台詞を吐きながらも、その表情には笑みが浮かぶ。互いに浮かべた悪童のような笑みの意味は、二人にしか解らない。 「カウントは2-1でいいぜ」 そう言った和輝に、フルカウントでも構わないと夏川が言い返す。けれど、萩原はカウント2-1を宣告した。 白球を拾い上げ、夏川がマウンドに立つ。和輝はバットを掲げ、静かに構えた。 野次馬のどよめきも、風の音も消え去った。降り注ぐ日光がきらきらと輝いている。夏川が振り被った。その右手から放たれた白球は真っ直ぐど真ん中に、突き刺さるように駆け抜ける。その力強さに白球の唸りが聞こえるようだ。だが。 (お前じゃあ、まだ、俺は打ち取れねぇよ) 和輝の振り切ったバットが、夏川には見えただろうか。 酷く澄んだ高音が、夏の空に響き渡った。降り注ぐ日光がまるでダイヤモンドの粒子のように、夏川の頭上を越えていく白球を照らしている。 打球は――、センター。基本と呼ばれるセンター返し。それは夏川の本気の一球でさえも、バッティング練習の一つと捉えている和輝の余裕が現れていた。 「――勝負あったな」 二人の勝負を見ていた高槻は早々に背を向けて練習の準備に向かう。すっかり時間が遅くなってしまったが、野球部のグラウンドは此処ではないのだ。 マウンドから、恐らくはセンターに落下した白球を見詰める夏川の表情は険しい。そのマウンドは土が盛られている訳でもないただの平面だ。バッターボックスも何の白線も引かれてはいない。決して正式な勝負ではない。けれど、確かなことが一つある。 (俺は、こいつには敵わない) 夏川はそれをはっきりと実感した。けれど、それは絶望ではない。 既にバットを下した和輝が、自分の打ち返したボールを拾いに走っている。ぞろぞろと解散していく野次馬と同じように、野球部もまた自分達のグラウンドに向かう為の支度を始めている。 ボールを拾った和輝が夏川の傍に立つ。無表情ながらも、その目は日光を浴びてきらきらと輝いていた。 「――さあ、練習に行こうぜ」 気を使う素振りもないのに、今の勝負に触れもしない。夏川は頷いた。和輝は、言葉の無用さを悟っているのだ。 荷物を取りに部室へ行くと、部員達はいつもと変わらぬ態度だった。 一年という立場上、先輩の倍近くの大荷物を抱えて山の急斜面を上っていく。とんでもない山の中にあるグラウンドを目指すのは既に十分なトレーニングだった。 ぽたぽたと額に浮かんだ汗の粒が、滴となって落下する。その重労働から無言になる道程で、和輝は思い出したように口を開いた。 「俺、投手経験あるんだ」 夏川は驚いたが、荒い呼吸で喉が張り付き声が出なかった。夏川の前で大荷物を載せた自転車を押しながら、振り返りもせずに和輝は言う。 「中学の頃、兄ちゃんの影響でさせられていたんだ。監督にね」 させられていた。それは恐らく事実なのだろうけれど、普段の和輝ならきっとそんな言い方はしない。 きっと今、和輝は笑っている。夏川はそんな気がした。 「フォームが凄く良かったんだ。あと、コントロールも。でも、俺には絶対に欠けてはいけない大切なものが無かった」 「球威か?」 「いいや」 何かを躊躇うような間を置いて、和輝は言った。 「投手としての自信と誇りだ」 「自信と、誇り」 その言葉を復唱して、夏川は黙った。 それは当然だろう。最初の言い方からして、和輝は無理矢理投手をさせられていたのだ。それなのに、投手としての自信や誇りを持てというのは酷く傲慢に思う。だが、きっと和輝はそれだけではないのだろうと思い、夏川は次の言葉を待った。 「監督の期待には応えたかったんだ。だから、必死に練習した。……でも、必死になるほど投手が嫌いになって、練習に出ることすら億劫になった。あの頃はさ、すごく苦しかったんだ」 それが、才能を持ち合わせた者の宿命だ。周りからの期待は常にある。それを関係ないと振り払う者がいるように、振り払えず全て拾い上げようとする者がいる。 「でも、あるとき言われたんだ。もう投手はやらなくていいって。俺と兄ちゃんが余りにも違うから、諦めたんだろうね。その時、俺、すごく楽になったんだ。ああ、これでもう投手の練習をしなくていい。俺は俺らしく野球していいんだって、思った。……兄ちゃんの陰に怯えてた俺は、結局投手の自信や誇りを持つことができなかった」 その口調は明るいけれど、まるで何かを償うようであり、後悔するようでもあった。 勝手に押し付けられたその理想を、和輝は馬鹿みたいに拾って実現させてやろうとするのだ。それは天才の宿命というよりは、ヒーローとしての宿命のように思えた。 「だからさ、俺は全てのピッチャーを尊敬する。マウンドで、仲間に背中を向けて、周りからの重圧背負って、たった一人で投げていく彼等を尊敬する。俺にはできないから」 和輝にとって、投手とは孤独の象徴なのだろうと夏川は思った。 そう、当時の和輝はきっと孤独だったのだ。仲間はいただろう。友達も、味方だっていただろう。けれど、監督の期待に応えられなかった自分自身を和輝は蔑んだ。周りのどんな人間が彼を認めても、自分自身を認められないこと程に空しいことはないだろう。 人に優しく、自分に厳しく。それを地で行くその姿はとても美しいけれど、余りにも痛々しい。それでも貫こうとする真っ直ぐさこそが、彼の不幸だと思う。 「誰もお前を責めてなんかいない」 はっきりと、聞き間違えることのないように夏川は言った。けれど、和輝は黙って進み続ける。 重荷に自転車が悲鳴を上げている。何も言わない和輝に溜息を一つ零す。 「……お前、始めから投手やる気なんてなかったんだな」 ぽつりと夏川は言った。振り返りもしない和輝の肩が微かに揺れた。笑っているらしい。 此処に来て高槻に乗せられていたことを理解し、夏川は溜息を零した。 「俺をその気にさせる為に、やりたくもない投手を賭けて勝負を受けたのか」 「その気にさせる為じゃないさ」 自転車を押していた足を止め、両手はしっかりとブレーキを握りながら和輝が横顔だけで振り向いた。悪戯っぽく笑う口元に白い歯が見える。 「お前の覚悟が、解ったから」 だから、勝負を受けたのだと和輝が笑う。 きらきらと輝く日光を受けて大きな双眸が細められる。嬉しさと楽しさを混ぜ込んだ、遊園地を目前にした子どものような笑顔だ。 「なあ、夏川」 輝くような笑顔に、背を向けた太陽の影が落ちる。それこそが和輝自身を表しているようだと思った。 「俺はお前の前に何時までも立ち続けてやるよ。お前の超えるべき壁として、目指すべき目標として」 随分な自信だな、と思った。けれど、その言葉は事実なのだと夏川は思った。自分は和輝に勝てない。 再び背を向けた和輝がゆっくりと歩き出す。男子高生にしては随分と小さい背中だ。 天才と呼ばれ、英雄のように生きる。その姿は常人に真似できるものではない。それでも、真っ直ぐに歩いて行こうとする。 (こいつは、その為に真っ直ぐであろうとするんだ) 迷わず、間違わず、誰かを否定することもない。誰かの道しるべである為に、自分自身の誇りの為に。 嘗て失ったものを取り戻す為に、失わずに済む為に。 振り返りもしないけれど、置いて行くこともしない。小さいけれど、その足取りは力強い。 (……敵わねぇなあ……) すごい奴だと、ぽつりと思った。
2011.2.6