秒針が歩いて行く。
 長い旅を続ける彼等の足を止める術を人間は未だに持たない。時は無情に進み、戻ることをしない。病室に据え付けられた丸い壁時計を見遣りながら、祐輝は前進を弛緩させるように大きな溜息を零した。
 暴力的な日光が、カーテンの隙間から零れ落ちている。冷房の利いている室内とガラス一枚隔てた外は灼熱地獄だろう。室内の沈黙等お構いなしに騒ぎ続ける小さなブラウン管の奥には懐かしい場所が映っていた。
 一年前は自分もあの場所にいたんだな、と感慨深げにテレビを見ていれば、此方を窺うように病室の主が視線を投げた気配がした。祐輝は凭れ掛かっていた壁から背を起こすと、ベッドの横に置かれたパイプ椅子に移動する。無表情の高槻がそれを一瞥すると、また、視線をテレビに映した。


『――第〜回、全国高等学校野球選手権の、開会式を、始めます』


 微かな緊張に震えるアナウンス、数秒後に起こった拍手の嵐。
 乾いた音が茹だるような熱気に響き渡って行く。続く管楽器の祝福、拍手は静かに退場する。
 懐かしいな。言葉にしなかった祐輝の思いは浮かべられた微笑みが雄弁に語っている。高槻は、和輝の兄である蜂谷祐輝の見る者を惹き付ける整った相貌を見遣って口の中で笑った。
 祐輝が病室を訪れたのはついさっきのことだ。何の連絡も無く現れた世間を賑わす天才プロ野球選手に驚かない筈も無かったが、先日和輝が巻き込まれた暴力事件を思えば当然の成り行きだった。高槻の見舞いに訪れた帰り道、社会の底辺のようなゴロツキに絡まれた和輝が奈々を庇い、囮となった先で暴行を受けたとのことだった。すぐに駆け付けた匠や彼等の幼馴染のお蔭で幸い、怪我は大したものではなく、事件も速やかに解決したようだった。
 和輝が暴力事件に巻き込まれたと聞いた時は肝を冷やしたが、その二日後に頬に不釣り合いな程大きな湿布を貼って病室を訪れた和輝に思わず駆け寄ろうとしてベッドから落ちそうになった。一年間、歩くこともして来なかった足は自力で立ち上がることも出来ない。ベッドから落ち掛けた高槻に心底驚いたというように目を丸くして声を上げた和輝を思い出せば暫く笑いの種に事欠かないだろう。
 暴力事件から無事帰還した和輝は、翌日に控えた母の命日の為に帰宅していた祐輝の拳骨を脳天に受けたとのことだった。
 これ以上背が伸びなかったら兄ちゃんのせいですよねぇ。
 そう言って、和輝が電話の向こうで笑った。和輝は既に県外にいた。神奈川の地区予選を勝ち進んだ晴海高校は代表として、甲子園球場のある兵庫県へと遥々飛び立っていった。そうした連日の経緯を電話越しに語った和輝はもう、今はブラウン管の向こうにいたのだろう。公衆電話の向こうから聞こえる歓声と共に通話を終えれば、タイミングを見計らったように病室の扉が開いた。其処にいたのは成長を止めない天才、蜂谷祐輝だった。
 挨拶もそこそこに黙り込んだ祐輝が何を思うのか、高槻には解らない。ただ、逆の立場だったなら、自分は今頃、祐輝を殴っていたかも知れない。大切な弟を暴力事件に巻き込んだ挙句、彼の世界から野球を奪い掛けた。追い打ちを掛けるような世間からの白い目、痛烈なバッシング。その原因を作った自分は、ただ、眠っていただけだった。
 どんな叱責も受けるつもりで沈黙しても、祐輝は一向に口を開かない。それどころか、まるで世間話でもしに来たような穏やかさを崩さなかった。
 祐輝の意図が読めない高槻は気配だけでその心中を察しようとするが、相変わらず読めない。天下の大エースが易々と胸中を悟られるようではいけないのだろうけれど。


「高槻、君」


 何と呼べばいいか、と僅かな逡巡。祐輝が静かに口を開いた。
 和輝と同じ大きな瞳はブラウン管の奥を食い入るように見詰め、動かない。それでも言葉を放つ先は先輩でも後輩でもチームメイトでも無い高槻だ。


「あんたが、目覚めて良かった」


 警戒しているのか、緊張しているのか、固い声だった。


「……俺達の家、母親がいねーんだよ」


 唐突に、祐輝が切り出した。


「和輝を産んで、死んじまった」
「……知ってる。和輝から聞いた」
「何て?」


 暫し、言葉を探す。濁すべきか悩んだが、高槻ははっきりと答えた。


「『俺が、お母さんを殺した』」


 その言葉への反応を不安そうに高槻が視線で窺う。けれど、祐輝は自嘲気味に口角を釣り上げただけだった。


「――俺が、そう思い込ませた」


 空調の冷えた風が頬を撫でた。言葉を失った高槻に、祐輝が目を伏せて言う。


「ガキの頃、今じゃ想像も出来ないくらい、和輝は病弱だったんだ。産まれてから暫く入院生活、如何にか退院しても点滴の為に毎日通院。それ以外に外出することも出来なかった」
「想像も付かねーよ」


 言えば、祐輝が笑った。
 当然だろう。高槻が出会った和輝は既に健康的に日焼けした、腕白で活発な少年だった。少なくとも病院とは無縁に見えた。けれど、祐輝は高槻の反応などお構いなしに続けていく。


「言い訳をする気はねーけど、俺は馬鹿で、阿呆で、どうしようもなくガキだった。だから、母親が命を引き換えに産んだ和輝が、憎くて仕方なかったんだ。あいつが五歳を過ぎる頃まで、碌に会話したことも無かった」


 まるで神父になった気分だと、高槻は思う。それは、祐輝が余りに過去の罪を告白する罪人に見えるからだろう。
 罪人の告白は終わらない。


「狭い家の中が、あいつの世界の全てだった。その和輝を俺は無視し続けて、置き去りにして来た」


 酷く乾いた、砂漠のような涸れた笑いが祐輝の喉から漏れた。


「何度、あいつは俺を呼んだのかな。何回、手を伸ばしたのかな……」


 高槻は答えなかった。否、答えられた筈が無かった。
 実は以前、この話を聞いたことがあった。一年前、高槻が長い昏睡状態に陥る前だ。本当に偶々、祐輝と浩太が話しているのを聞いてしまったのだ。その時もやはり信じられなかったし、受け入れられなかった。高槻の知る蜂谷兄弟は、才能に恵まれたヒーローだった。過保護な程に弟を大切にする兄と、大好きな兄を尊敬する弟。如何して祐輝が、和輝を過保護なまでに擁護しようとするのかも考えなかった。兄弟とは、得てしてそういうものだろう。
 そういう二人の間に、蟠りがあったなんて、誰が信じるだろう?


「親父に連れられて、一度、和輝の病院に行ったことがあったんだ。其処で、漸く俺はあいつの抱える現実を知った」
「……それで、考えを改めたってか?」


 高槻の言葉に、祐輝が自嘲する。


「そりゃそーだろ。碌に外出も出来なくて、俺には無視されて、毎日のように腕に針刺さなきゃ生きていけなかった。それなのに、あいつは我儘一つ、泣き言一つ、弱り目一つ見せなかった!」


 それは、今も変わんねーけど。高槻が言った。
 今の和輝の傲慢なまでの自己犠牲主義を作ったのは、そういった兄弟での蟠りだったのだろうと、高槻は思う。
 祐輝は疲れた、とでも言いたげに息を吐き出した。それは普段のヒーローのような祐輝からは程遠い、年相応の青年の姿だった。


「……俺に頼れなかった分、あいつはあんたに依存しちまったんだな」


 兄との関係を修復する為に、和輝は独りの道を選んだ。守ってもらうばかりの存在ではないと、そう主張するように。
 それでも付き纏う兄の影と、失った仲間との軋轢、世間からの圧力を真っ向から受ける中で、和輝は高槻に出会った。弱くても格好悪くても、自分が自分でいていいと受け入れてくれて、呼べば振り向いてくれて、伸ばせば手を掴んでくれる高槻に。
 高槻も始め、ただの後輩として接していた。お節介な後輩に苛立ったこともあったけれど、悪意無く自分を認め尊敬し追い掛けて来る後輩を突き放すことなど出来る筈が無かった。
 それ以上に。


「依存したのは、俺も同じだ」


 ぽつりと高槻が零した。


「俺も、死んだ弟をあいつに重ね合わせてた。……皮肉だな」


 高槻が言う。


「俺は手を伸ばしてくれる弟、和輝は手を取ってくれる兄が欲しかったんだ」


 滑稽だろう。馬鹿らしいだろう。擬似的な兄弟関係に、自分達は酷く安心してしまった。自己満足の為に、互いを巻き込んだ。
 けれど。


「それでも俺は、あいつを突き放せねー」


 これが間違っているとしても、認められなくても、一度掴んでしまったものを手放すことなんて出来ない。


「俺にとってはもう、和輝は後輩の一人なんかじゃねーよ。俺の弟だ」


 言えば、祐輝は一瞬面食らったように目を丸くして、――笑った。何処か幼い、和輝そっくりの笑顔だった。


「別に、返せなんて言うつもりもねーけど。ただ、あんたにお礼がしたかっただけだ」


 祐輝はゆっくりと立ち上がり、高槻を見据えた。
 澄んだ湖のようだ。水底すら透けて見えそうな、けれど揺らぐことのない真っ直ぐな視線。


「あいつの傍にいてくれて、ありがとう」


 その笑顔に、件の弟の顔が重なった。
 これまで高槻に零した和輝の弱音や泣き言は、本当は兄に聞いて欲しかったものだろう。引退試合のこと、仲間との決別のこと、陸上部から因縁を付けられたこと、体育倉庫に閉じ込められたこと。全部全部、聞いて欲しかった筈だ。
 敵わないな、と思ったのはお互い様だ。




22.アンダースタンド




『選手が、入場します――』


 等間隔に叩かれる手拍子の中、横断幕を持った選手が、生徒が入場する。
 華々しく彩られる開会式。賑わうアルプス。夢見た舞台に立とうとしていることに感動を覚える間もない程、この数日間は慌ただしかった。それでも太陽が照らすグラウンドにあるのは、嫉妬や悪意ではない、純粋な熱意と尊敬だ。
 此処に立つ為に、戦って来た。


『先頭は、前年の優勝校、政和学園賀川高校――』


 覚えのある名に、和輝は耳を澄ます。
 軍隊のように統率された列の前列で、三年生を押し退け行進するのは一際大きな少年が腕を振って歩いて行く。
 陸。
 声にせず、和輝が呟く。嘗てのチームメイトだった。甲子園での再会を約束した友達だ。行進なんて柄ではないだろう。何時もの仏頂面が余計に険しくなっている。息を漏らすように笑えば、隣で匠が肩を押した。


「行くぞ」


 プラカードを持つ女子生徒が歩き出す。連なるように足を踏み出した先、目が眩むような太陽が待っていた。
 吸い込まれそうな青。手を伸ばせば届きそうな白い太陽。雲一つ無い晴天から降り注ぐ光はまるで――。


「綺麗だ」


 行進を崩す事無く、正確なリズムを刻みながらぽつりと零した和輝の声は、誰にも届かない。
 漣のように押し寄せる拍手。


 綺麗だ。
 空も、太陽も、風も光もみんなみんな、綺麗だ。


 そう思った瞬間、体中を電気のような鋭さが駆け抜ける。それは馬鹿な勘違いをしそうになる自分を戒めている。
 世界は敵だった。人が怖かった。言葉は汚かった。――でも、違うのかも知れない。まるで、この世界が自分を受け入れてくれているような、祝福してくれているような、そんな勘違いをしてしまいそうになる。
 誰かの夢を犠牲にして立っているこの場所で、拍手をもらう自分は正しいのか。彼等が認めてくれるだけの人間なのか。そう思うと行進を続ける歩調が淀みそうになるけれど。


――お前はそのままでいいんだよ


 背中を押してくれる言葉がある。独りじゃないと受け入れてくれる場所がある。
 顔を上げれば大空、足を踏み出せばグラウンド、耳を傾ければ声援。色を失ったモノクロの世界が色付いて行く。凍えるような悪寒が消え失せて真夏の太陽が降り注ぐ。
 碓氷の書いた記事は、僅か数日で世間を駆け巡った。それまで痛烈なバッシングに勤しんでいたマスコミ各社が、事実の裏付けを取ると途端に掌を返した。亜矢の父親は児童虐待の罪で一年と言う月日を経て逮捕された。少女の自殺の原因が世間を賑わすヒーローの裏切りでないと解ると今度は一人の少年を神にしようとしている。過度に賞賛される和輝に嫌悪する人間もいるだろう。何も知らずに崇拝する人間もいるだろう。世間が作り上げた虚像は日々大きさを増して実像を侵食しようとするけれど、ありのままの自分を受け入れてくれる場所がある。帰る場所がある。目指したい夢がある。顔を上げて進む為に、これ以上に必要なものがあるとは思わない。

 開会式が終わり、各校はそれぞれ宿に戻ろうとしている。球場に押し寄せる観客の中で十分なミーティングが出来る筈も無く、皆何処か早足だった。現在のチームでは初出場となる晴海高校も例に漏れずマイクロバスに乗り込んで行く。
 周囲の喧騒の中、和輝は自分の高鳴る鼓動を確かに感じながら足を踏み出す。熱された鉄板のようなアスファルトが固い感触を返した。その時。


「――和輝!」


 不意に背後から掛けられた声に振り返る。何事かと、半開きの窓から匠も様子を窺った。
 少年とはいえ、鍛え上げられた屈強な選手達の中、彼は余りにも細い。目を引くその姿に和輝は思わず笑みを浮かべた。


「大和!」


 青樹大和が、駆けて来る。
 大阪府私立北里工業高校。毎年甲子園に出場するような全国屈指の強豪校だ。投手層の厚さは折り紙付きながら、それ故に長年捕手不足に悩まされて来た。けれど、そんな悩みはもう無用なのだろう。現在のレギュラー、正捕手は一年の頃から類稀な才能と実力で勝ち上がった青樹大和だ。その手強さは嘗てのチームメイトである和輝が誰より知っている。

 和輝がバスに乗り込もうとする足をアスファルトに下ろすと、大和は満面の笑みを浮かべた。
 相変わらず細くて薄っぺらいな、と和輝は内心笑う。それでも自分より遥かに背の高い青樹を見上げていた。


「久しぶりだな、和輝!」
「うん。元気そうで良かった」
「そりゃ、こっちの台詞だっての!」


 言うと青樹は体当たりするように和輝に抱き着いた。
 細身の割に力があることに驚く。背骨が嫌な音を立て、和輝が呻き声を上げる。世紀末を思わせる断末魔に、歯止めを掛けるように青樹の後頭部が叩かれた。小気味いい音を立てて青樹が小さく「いてっ」と声を漏らした。
 漸く解放された和輝は自身の背骨を摩りながら青樹の背後の少年を見上げる。
 射抜くような鋭い眼差し、仏頂面。文句を言う青樹をじとりとねめつける。


「あ、浅賀」
「よう」


 浅賀達矢が口角を釣り上げて笑う。
 浅賀達矢は、伝説の元プロ野球投手、浅賀恭輔の息子だ。溢れんばかりの才能に恵まれた体格を持つ天才投手。現在の高校野球界を二分する天才投手の一方である。蜂谷家とは父を通じて幼少期より交流があるが、生憎、和輝には当時の思い出は殆ど無い。病院通いが多く外出することが極端に少なかった和輝と、幼い頃から野球少年だった浅賀の交流が少ないのは当然だ。それでも、浅賀の記憶の片隅に残っていた記憶が昨年の練習試合で顔を合わせたことを切欠に蘇った。
 微かに残る蜂谷和輝は白くて小さくて細い、病弱を絵にしたような子どもだった。浅賀は目を細め、感慨深げに和輝を見下ろして頭を撫でた。


「……大きくなったなァ」
「嫌味か?」


 手を払い退け今度は和輝がじとりを浅賀をねめつける。浅賀が笑った。


「そうやないけど。まあ、元気そうで何よりやな」
「お前等もな」


 背の高い二人が正面に立つとそれはまるで壁のようだ。太陽を遮る青樹と浅賀に、和輝はくすりと笑う。生憎、身長に対するコンプレックスは殆ど無い。ざまあみろ。内心、和輝がほくそ笑む。
 浅賀が訝しげに片眉を跳ねさせたが、青樹は笑みを崩さない。


「なあ、お前の学校の宿、何処?」
「訊いて如何するんだよ。大和、絶対来るだろ」
「……それは如何かな?」


 わざとらしく声を低めて意味深に青樹が不敵に笑う。和輝は吹き出した。
 意味解んねーよ。
 和やかに笑い合う三人の周囲には人だかりが出来ている。高校野球界の有名人がこうして集まれば注目されるのも当然だ。マイクロバスの窓から身を乗り出し、匠が叫ぶ。


「おい、さっさと乗れよ、和輝!」


 怒鳴り付けるような強い口調に、和輝が肩を竦める。


「はいはい。さっさと行きますよ。……じゃあな、大和。浅賀」


 バスのステップに乗り上がり、和輝が振り返る。
 胡散臭いまでの笑顔で青樹がひらひらと手を振る。横で浅賀が口角を釣り上げ「じゃあな」と返した。
 ゆっくりと、人込みの間を縫うようにバスが発進する。少数精鋭の晴海高校に見合ったマイクロバスが、前方を走る強豪校の大型バスの後を追い掛けているようだ。窓際の匠が青樹に軽く手を上げ、挨拶をしていた。
 一年前の傷害事件が今頃になって明るみになり、それまで悪人に仕立て上げられた少年の免罪が漸く晴らされた。マイクロバスが見えなくなったことを確認し、青樹はふつりと笑みを消し去って肩を落とした。
 能面のような無表情の青樹を横目に、浅賀が呟いた。


「元気そうで、良かったな」
「……ちょっと、痩せたみたいだけど」


 成長期の男子にあるまじき体格だ。不満そうに青樹が言う。


「お前はおかんか。多感なお年頃なんやから、ダイエットくらいするやろ」


 浅賀の見当違いな発言に、青樹は盛大な溜息を吐いた。愚鈍でない浅賀が通常の斜め上の返答をする時は、話を逸らそうとする時だ。
 尤も、浅賀の対応は正しい。今更何を言っても、全ては過去だ。青樹は強張った表情を僅かに崩した。


「もういいよ。俺等もさっさと帰ろうぜ」
「……あいつはもう、大丈夫や」


 くるりと背を向けた青樹に、浅賀が呟くように言った。
 返答はせず、青樹は少しだけ笑った。――そんなの、知ってる。
 和輝はもう二度と、自分達を忘れたりしない。


「頑張れよ」


 脳裏に浮かぶ和輝と匠の後姿。大和は明日の第一試合を思い、息を一つ逃がした。
 ポケットに収まったトーナメント表。第一試合は、晴海高校と、王者、政和賀川高校の試合だった。

2012.8.26