ちいさな てのひら

俺は逃げないよ
(1.天才の名前<2> 蜂谷和輝)

誰もお前に苦しめなんて言わないし、楽したって責めたりしねェ。
だから、もう一人で背負い込むなよ
(2.トワイライト・トゥモロー 蜂谷祐輝)

辛い事独りで抱え込まないで、少しくらい分けてくれよ。
……もう、俺だって傍観者でいたくねェ
(3.カタルシス<3> 桜橋礼司)

臆病な人間は自分の事を臆病だなんて言わねぇよ
(4.完全無欠の傷跡<1> 萩原英秋)

頑張れ、負けるな
(4.完全無欠の傷跡<3> 蜂谷祐輝)

逃げるのって、楽なんだよな
自分も人も傷付かないで済むし、手っ取り早い。
でもさ、逃げるのって格好悪いじゃん
俺は逃げないよ。負けたくないから
(5.等身大の鏡<3> 蜂谷和輝)

お前が選んだ道の答えはまだ出ちゃいないんだから、最後まで諦めないで頑張れ
(6.坂道<1> 北城涼也)

俺達は永遠に変わらねぇよ、馬鹿
(7.美しい世界<3> 白崎匠)

俺は、黴臭い才能の世界を塗り替える為に、甲子園を目指すよ
(8.宣戦布告<3> 箕輪翔太)

俺は、お前を信じる
(9.汚名<1> 高槻智也)

俺を見てろ
(10.無知の知<2> 高槻智也)

天才じゃなくってもいいよ。エラーしたっていいからさ、ベンチの外で落ち込むなよ。
キャプテンが連れて来るまで見付けられなかったけど、皆、本当に心配したんだぞ
(10.無知の知<3> 箕輪翔太)

この世はさ、冷静な天国なんだよ。勿論、神様なんていない
(11.冷静な天国<1> 高槻智也)

諦めんのか? 逃げんのか? 俺がライバルと認めたのは、そんな男だったのか!?
(12.泥中の蓮<2> 白崎匠)

誰を憎んだって、誰を恨んだって結果は変わらねぇだろ。
何かを変えたいなら、人のせいにばかりしてないで自分達が変わる努力をしろ
(12.泥中の蓮<3> 高槻智也)

あいつはもっと強くなる。いつか、本当のヒーローになる
(13.ダイヤモンド<3> 高槻智也)

何が可笑しいんだよ! 何が恰好悪いんだよ!
勝ちてぇと思うことの、何処が恥だってんだ!!
(14.虹の立つ場所<2> 諸星太一)

甲子園で待つ
(15.未来への咆哮<3> 赤嶺陸)

何時だって、気付いた時には遅過ぎる
(16.金色の砂<3> 蜂谷祐輝)

待たせねーよ。俺は走って、其処に行く
(17.光のフィルム<3> 蜂谷和輝)

叩き潰したいだなんて、笑わせてくれるぜ。お前はただ、あいつが怖かっただけだろう
(18.道標<4> 夏川啓)

置いて行かないで。通り過ぎないで。俺、傍にいたいんだよ。
兄ちゃんと野球したいんだよ。兄ちゃんと一緒にいたいんだよ。兄ちゃんと笑い合いたいんだよ。
(19.てのひら<5> 蜂谷和輝)

ヒーローには相棒が必要だろ?
(20.声<3> 白崎匠)

リトル・ヒーロー

でもな、噛み付く相手は択ばないといけないぜ?
(1.合縁奇縁 蜂谷和輝)

俺がいるのに、負ける筈ねーだろ。俺が訊いてんのは、何点差で勝ちたいかってことだ
(2.ヒーロー<後編> 蜂谷和輝)

なあ、俺、お前に何をしてやれるかな?
如何したらお前、心から笑えるの。
如何したらいいの。
教えてくれよ、和輝。
(3.違和感 白崎匠)

大の大人が、軽々しくこんなものを振り翳すんじゃない!
(4.鬼門 蜂谷和輝)

お前は、あいつが完璧なヒーローだと思うのか?
(5.闇の中 白崎匠)

俺だって全てを知っている訳じゃない。
俺が知っているのは、今のあいつの苦しみだけだ
(6.希望の轍 白崎匠)

俺だって、ヒーローになりたかった。全てを救える人間になりたかった。
そう言えば、誰か解ってくれるだろうか。この少年を救えるだろうか。
(7.英雄崇拝<後編> 蜂谷和輝)

時間は万能薬じゃない。医者が風邪を引くように、時間だって病気になる
(8.幸福な亡骸 藤徹)

ずっと、強くなりたかった。
でも、いいのかな? 弱いままで、許されるのかな?
(9.生命線<後編> 蜂谷和輝)

強くなろう。今度は、一緒に
(10.幸福な亡骸 蜂谷和輝)

決勝戦で、待ってる
(11.理想 見浪翔平)

お前の野球を、俺に見せてみろ
(12.Crazy Sunshine. 蜂谷和輝)

泣くくらいなら、強くなれよ。そんで、俺を超えてみせろよ
(13.GOING HOME<後編> 蜂谷和輝)

先のことなんざ、誰も知らないんだ。
勝てるか如何かなんて解らねーよ。
大切なのは、勝とうとするか如何かだろ
(14.Limited World.<中編> 諸星太一)

俺達はこんなところで終わらない!
(14.Limited World.<後編> 葛西慎二郎)

それでも、和輝が好きだよ
(15.愛が呼ぶほうへ<前編> 北城奈々)

終わったことをねちねちと、しつけーんだよ。
過去が如何あれ、現在に満足出来るなら十分だろ
(16.導火線 蜂谷和輝)

叩き潰そうとするなら、叩き潰される覚悟をしろ
(17.迷子の僕に<後編1> 蜂谷和輝)

勝つ為には仲間が必要だよ。
でも、本当に必要なのは、負けた時なんじゃねーかな
(18.敗者の刑 蜂谷和輝)

もう、置いていかねぇよ……!
(19.ジターバグ<後編> 高槻智也)

さよなら
(20.Time To Say Goodbye. 蜂谷和輝)

お前が、俺のヒーローだった
(21.Somewhere Over The Rainbow<後編> 蜂谷和輝)

あいつの傍にいてくれて、ありがとう
(22.アンダースタンド 蜂谷祐輝)

言っとくけどな、俺はお前等と一緒にいたことを、一度だって後悔したことはねーんだよ
(23.アフターダーク<後編> 藤徹)

勝率が低かろうが、世間が何を言おうが関係無い。俺は俺のやり方でお前に、勝つ
(24.リトル・ヒーロー<後編> 蜂谷和輝)

蟷螂の斧

どんなに辛くても、見失ったらいけないんだ。
たった一度の人生だから、前を見て生きていくしかないんだよ
(1.ハンプティ・ダンプティ(4) 蜂谷和輝)

置いて行かないよ、もう二度と
(2.風見鶏(4) 蜂谷和輝)

だからこそ、面白い
(3.少年Sの憂鬱(4) 蜂谷和輝・白崎匠)

俺だって相棒をコケにされてんだぞ。腸煮えくり返ってるっつの
(4.Ding dong bell.(2) 白崎匠)

お前が否定してるのは他の誰でもない、お前自身だろ。
お前自身が認められないんだろ。お前を一番信じてないのは、お前自身だろ
(5.高架線(4) 蜂谷和輝)

悪銭身に付かずって言うだろ?
(6.共闘ガンゲーム(1) 見浪翔平)

迷惑じゃねーよ!
心配してんだよ!
仲間だから!
(7.犬猿の仲に割って入る(4) 醍醐環)

俺達は、お前を独りにしないよ
(8.晴海高校野球部の平和な夏合宿(2) 箕輪翔太)

誰かの為に、なんて理由は弱い。
それでも、人は誰かの為に本気になり、奇跡を起こすことが出来る。
(9.I'll be there.(1) 蜂谷和輝)

他人が如何言おうと関係無いわよ。
私が好きで、一緒にいたくて、一番傍で見ていたいんだもん
(10.君を殺した(4) 北城奈々)

俺達の努力は、無駄なんかじゃなかった!
(11.One minute.(2) 蜂谷和輝)

嫌なことは何時までも考えなくていいんだよ。
忘れられなくても、忘れた振りしていればその内、思い出になる
(12.夜光樹の森(2) 蜂谷裕)

いつか、努力した自分を認められる日が来るよ。
肩を並べて笑い合える日が来る。
だから、その悔しさも遣る瀬無さも全部大事に守っとけ
(13.Fire Cracker(4) 箕輪翔太)

仲間だったよ
(14.その訳を(4) 白崎匠)

諦めが必要な時もあるだろう。
人生なんて妥協の連続だ。
でも、それは今じゃない。今はまだその時じゃない
(15.グラウンドゼロ(3) 蜂谷裕)

俺がしてやるよ。お前を、全国一のエースに
(16.Missing(3) 青樹大和)

奇跡を見せてやるよ
(17.刹那(4) 蜂谷和輝)

でも、俺はお前のこと、解りたい。だから、全力でぶつかるんだよ
(18.衝突 蜂谷和輝)

背中を預けるっちゅうことが、信頼だったやないかい
(19.Monster(7) 五十嵐漆)

行って来ます
(20.Funny Bunny(3) 蜂谷和輝)

Conversation.

「お前が、証明してくれよ! 才能なんて関係無い。努力は裏切らない。そう言って、証明してくれよ!」
1.和輝と箕輪
 相似形の二人。
 箕輪は凡才ながら努力家で、友達思いで献身的。和輝に対して羨望や憧憬を抱きつつも、大切な仲間として受け入れている。折れそうになった時、当たり前のように支えてくれて、立ち止まれば振り返り、俯けば手を引き、蹲れば背中を押してくれる和輝を友達として大切にしている。
 和輝を通して現実の残酷さを垣間見て来た箕輪は、少々排他的な思考を持っている。けれど、優しさと甘さを履き違えない本当の意味で優しい人間。才能の格差を受け入れた上で肩を並べ合える貴重な関係。



「思ったことは口に出せよ。しんどいことも言え。八つ当たりもしろ。一人で一線引いた気になってんじゃねーよ。全部自己満足だろうが」
2.和輝と夏川
 共に天才と呼ばれる選手。特に夏川は体格にも恵まれ、サラブレッドとして周囲からの期待も大きかった。
 重圧に潰れ掛けた頃に出会った和輝は、折れないもので、負けないもので、揺るがないもので、理解できないものだった。そんな夏川が和輝と日々を重ねる中で、彼が完璧な人間ではなく、強さも弱さも持ち合わせた普通の人間であることを知っていく。自分に干渉するなというスタンスでいても、真っ向から噛み付いて来る和輝が煩わしくもあり、頼もしくもある。夏川は、和輝は強いようで弱い普通の人間だと知っている。過ごす中で夏川も丸くなり、柔軟に物事を受け入れられるようになっていく。



「負けたくないんだ……!」
3.和輝と醍醐
 典型的な熱血で単純馬鹿な醍醐は、少年漫画の主人公タイプ。出会ったのが、クールな天才プレイヤーだったなら、持ち前の負けん気と根性で食らい付いた。けれど、彼の前に現れたのは一癖の二癖もある歪な天才だった。一見すれば頼りにならない和輝に食って掛かるけれど、共に過ごす中で、頼もしく格好良い先輩として尊敬するようになって行く。けれど、その歪んだ性分や世間からの逆風も目の当たりにし、主観だけで無く客観視する冷静さや、相手の立場になって思考できる優しさ、どんな状況でも諦めない不屈の精神を獲得して行った。
 和輝にとっては馬鹿で可愛い後輩の一人で、純粋な醍醐が眩しくもある。何年経っても軽口を叩き合える友達のような関係。



「お前、それでいいの」
4.和輝と蓮見
 醍醐の相棒にして親友の蓮見は、情報収集を趣味にする頭脳派プレイヤー。醍醐とは正反対ながら、長い年月を共に過ごし、互いを受け入れ信頼している。情報機器を自在に操作する中で嫌でも目にする和輝の存在に懐疑的で、常に一線引いて見ていた。関わりたくないというのが本音だったが、野球部に在籍する以上そうもいかない。
 入部した頃の凄まじい世間からの逆風やネットでの罵詈雑言を受けても、堂々としている和輝を理解できないまでも、尊敬している。一方で、癖のある仲間を少しずつ確実に味方にしていく人格に、自分はこの人のようにはなれないという劣等感も感じている。直情的な醍醐と真っ向からのらりくらりと躱す様を見て微笑ましく思っている。
 自分はこの人になれないけれど、なれなくてもいいんだよな。自分自身を信じられず諦めながらも、それでいいんだと受け入れ、三年生を送り出した蓮見は恐らくきっと、次期主将。人の痛みが解る優しい人間。



「和輝先輩はヒーローじゃないといけなかった!」
5.和輝と星原
 中学時代の後輩である星原は、所謂万能プレイヤー。性格には難有りだが、それを巧みに隠す知能や技術も持ち合わせている。本性は頭の良いジャイアン。そんな星原は、両親を失った事件を通し、和輝を尊敬以上に崇拝していく。特撮ヒーローへの憧憬にも似た感情を持ち、敗北や醜態を許さず認めない。ヒーローの失墜は、世界の崩壊に等しかった。
 和輝を先輩の一人として純粋に受け入れられるようになったのは、星原の認められなかった彼の弱さが、強さでもあると気付いたから。弱いからこそ優しく、脆いからこそ綺麗なものを知ったから。この人はこれでいいんだな。だから、格好良いんだ。和輝の一挙一動を全面的に受け入れる様は崇拝していた頃と変わらないけれど、意にそぐわないからと言って癇癪を起こしはしない。
 和輝にとっては可愛い後輩でもあるけれど、自分を認めているようで否定している星原が、少々扱い難かった。だが、成長するに連れて視野が広がり、物事を俯瞰で捉えられるようになった星原は本当に頼もしい後輩だった。



「なあ、空湖。前が見えているか?」
6.和輝と空湖
 和輝と匠の姿を、在りし日の自分と土屋そらに重ね見ていた空湖。二つ年上の彼はチームを引っ張ってくれる頼りになる大黒柱。
 偏見を持たず、自分の見たものだけを信じられる空湖は一本筋の通った人間。けれど、彼の中の柱は幼馴染の喪失と共に折れてしまう。彼女の遺してくれた白球に込められた思いや、その側で最期の瞬間まで支えてくれた人、それでいいんだよと言ってくれる仲間という存在を受け止め、成長して行く。
 空湖が入部した頃、彼の隠した事情や幼馴染の喪失に、二年前の自分を重ね見た和輝。自分に何ができる訳では無いけれど、彼が辛くてしんどくて逃げ出したいと願った時は、彼の逃げ場になってやろうと胸に誓う。それは二年前に出会った高槻への感謝であり、恩送りでもある。



「仲間を信じて、何が悪い」
7.和輝と孝助
 凡人とは一線を引く天才プレイヤーの孝助は、双子の弟である宗助への引け目や、中学時代のチームの崩壊を経て出会った和輝に否定的。自分には届かないチームというものへの羨望。天才と呼ばれながら仲間に囲まれる和輝への憧憬。和輝を否定しなければ、自分の過ごして来た日々や仲間、宗助を否定することになる。一種の意地が嫌悪となっていた。
 仲間だから受け入れなければいけないと意固地になっていた和輝は、どうしても否定的で解り合えない孝助に苛立つ。ムカつく。なんだこいつ。けれど、大切な後輩でチームメイト。和輝自身、孝助を否定しながらも、彼は自分のなり得た相似形だと気付く。解り合えなくていい。でも、お前の作った壁や溝は俺がぶち壊してやる。意地と意地のぶつかり合いを通し、素直になれないまでも孝助は仲間を信頼して行った。



「何で、信じるなんて言うんですか!」
8.和輝と宗助
 天才の兄を持ち、常に比較対象だった宗助。自信を持つこともできず、常に自分を否定し自己形成すらままならない。必死に足掻いてどうにか手にした居場所も砂上の楼閣で、何かに期待することも無くなってしまった。宗助が出会ったのは、天才と呼ばれながら体格に恵まれず、賞賛を浴びながら罵声を浴びせられる歪なヒーローだった。
 我が道を行く様に驚嘆しながら、自分にはできないと劣等感を抱える宗助。けれど、その対象である和輝は、弱いままでいい、だからこそのチームだろう。お前が何処の誰でも、天才じゃなくても大切な仲間なんだよ。体を張って訴え掛けてくれた先輩を、尊敬するようになっていく。やがてチームの一員である自分を受け入れ、才能の格差を振り切って、自信を取り戻す。
 和輝は宗助の弱さを知り、昔の自分を重ね見て、感慨深いと同時に他人事ではなかった。それでいいんだよ。それでも、いいんだよ。昔の自分が求め続けた言葉を、彼へ語り掛ける。



「頑張れ。頑張れ、頑張れ。――それしか、掛ける言葉が無いんだよ」
9.和輝と皐月
 橘シニアに在籍した嘗てのチームメイト。皐月は星原と同様に、和輝を崇拝のように心酔している。そしてそれは未来永劫変わらない。皐月にとって和輝は心の支えで、唯一の逃げ場所だった。
 中学時代の逆風を共に受けて来た二人は風見鶏。神様と信者ではなく、戦友にも等しい。
 自己犠牲なところや意固地なところも理解し、和輝が完璧な人間でないことを知っていて皐月は信頼していた。和輝が匠達と道を分った時、一人途方に暮れた時、自殺未遂を計った時、頼ってくれなかったことに対して不甲斐なさを感じた。同時に抱えた苛烈な怒りは、彼を追い詰めた周囲の人間へと向かい、物事を達観していた性格も攻撃的なものへと変わっていく。
 変わってしまった、いなくなってしまった。置いて行かれたと思っていた皐月が、実は和輝が立ち止まって待っていてくれたのだと気付いた時から攻撃性も身を潜めて行く。
 絶対的な味方だった筈の皐月に、何の相談もできなかったことを和輝はずっと後悔している。皐月はそれを気にしていないけれど、和輝はずっと気にしている。
 和輝にとって皐月は頼もしいチームメイトで、一緒にいるだけで楽しい友達。自分と似ている、若しくは自分と同じ境遇と親近感を覚えていた。和輝が不屈の精神を持っているのなら、それは皐月から学んだものでもある。



「試合で会うのを、楽しみにしてる」
10.和輝と見浪
 才能体格頭脳全てに恵まれた見浪翔平。皮肉屋でリアリスト。その背景には、世界への諦観がある。
 人生はイージーモードで、苦難もなければ達成感もない。乾いた日々を送る中で、惰性で野球を続け、ゲームに没頭していく。人生ベリーハードモードの和輝が理解できないけれど、羨ましいとも思っている。
 和輝は面白い玩具で、新しいゲームみたいなものだった。けれど、安安とクリアさせない存在が見浪を惹き付けて行く。チームとしては敵対するライバルだが、面白い人間だと互いに認め合っている。
 初期の見浪は子どもの残酷さを絵に描いたような人間だった。真っ向から噛み付く和輝と相容れない存在だったが、三年間の熱闘を通して、見浪は人生って面白いな! と未来へ希望を抱くようになった。
 世間からの逆風を受け、言い返す術も無く折れそうになった時、体を張って声を上げてくれた見浪は、和輝にとって恩人でもある。
 きっと、卒業してスカイプやらSNSやらを通して交流を持ち、本気か冗談か解らないような軽口を叩き合える友達になる。



「お前を、信じたかったよ」
11.和輝と青樹
 青樹は純粋で真っ直ぐで、感受性豊かな少年。和輝のことを常に気に掛ける様は肉親のようでもある。責任感が強く、心配性。けれど、性格は好戦的という魅力溢れる選手。
 砂鉄が磁石に吸い寄せられるように、青樹も和輝に惹き付けられた。道を分かった時には、何で相談してくれなかったんだと叱責するよりも、持ち前の責任感から、自分が不甲斐ないから頼ってもらえなかったと自己嫌悪してしまう。けれど、和輝は確かに青樹を信頼していたし、仲間だと思っていた。言葉にしなくとも伝わるだろうという信頼故の甘えから擦れ違ってしまった。
 同じチームでプレーしたかった青樹は良くも悪くも真っ直ぐで、和輝の意地や弱さを認められなかった。和輝は和輝で自己評価が低く、自分を認められないから、仲間への信頼を口に出せなかった。
 優柔不断で甘いところのある青樹は、敗北から信頼、自信を付けて行く。
 恐らく、中学時代、和輝が自分の心中を相談していれば道を分かつようなことはなかった。青樹はきっと理解できなくとも受け入れたし、味方になってくれた。もう一歩を踏み出せない臆病者の二人。性格は似ていて、一緒にいて楽な友達。



「見栄なんてとっくの昔に捨てたよ。綺麗な敗北より、泥塗れの勝利が欲しい」
12.和輝と浅賀
 前作stage of the ground.で主人公だった蜂谷裕と浅賀恭輔の息子対決。父親は微笑ましく見ている。
 幼少時に交流はあったが、記憶は殆ど無い。けれど、親の因縁を色濃く受け継いだ二人は時代を超えて対戦する。
 浅賀は、和輝達の決別を第三者として冷静に見ている。どちらにも非はあるし、馬鹿らしいと思っている。けれど、価値観の違う相手を否定してしまう青樹の無自覚の残酷さを知り、浅賀は自然と和輝の立場に寄っていく。
 単純、熱血で、努力家で、才能ある浅賀。生まれて初めて出会った青樹という相棒を信頼しているからこそ、自分の価値観に則って問い掛ける。或る意味で最も冷静で、彼等を正確に理解していた人間。



「甲子園で待つ」
13.和輝と赤嶺
 赤嶺はRPGでいうラスボス。中学時代の決別は、時間の経過と共に冷静に振り返るようになった。和輝が間違っている訳ではないけど、俺が間違っている訳でもないだろ。和輝に、自分の正しさを証明したいなら戦って勝てよ。ひねくれ者らしい鼓舞に和輝は奮い立つ。
 だが、追い詰められた和輝が自殺未遂を図った頃、状況は一変。同時期、赤嶺の父は過労死し、一家を支える為にはプロになるしかない。楽しいという感情も無くなり、約束を交わした筈の和輝は逃避しようとした。支えを失った赤嶺は現在のチームメイトに目を向けることができず、ただ、和輝を恨むようになる。
 才能の格差を具現化したような選手。将来はメジャーリーグでも活躍するだろうが、和輝とは時候の挨拶程度の連絡や、年に一度くらいは食事したりするようになる。



「諦めんなよ、足掻け」
14.和輝と祐輝
 天才の兄の下に生まれた和輝。祐輝は母親の命と引き換えに産まれた和輝の存在が恨めしく、付いて回る様が疎ましかった。だが、弟を包む環境の過酷さから、自分の振る舞いを省みて、考えを一転させる。その掌返しが和輝にとって不信に繋がり、また掌を返されるのではないかと兄だけでなく仲間、ひいては自分への不信になっていく。
 それでも、和輝にとって兄は唯一無二の存在で、ヒーローだった。追い付きたくて、隣に立ちたくて、振り向いて欲しかった。
 一方で、祐輝にとって和輝は罪悪感の象徴。和輝は口にも態度にも出さないけれど、必死に追い掛ける様が祐輝を駆り立てて行く。
 歪な兄弟関係になってしまった二人が、一寸先も見えないような闇の中、手探りで互いを理解しようと進んでいく。第一部での和解が二人の自己肯定感になった。第二部で高槻を失った和輝が縋る先は、祐輝しかいなかった。
 祐輝は将来世界的に有名な投手になって、この喜びを誰に伝えたいですか、とヒーローインタビューを受ければ必ず「弟の和輝に」と笑って答える。やがて全世界にこれがブラコンか、と知らしめ、世界公認の仲良し兄弟になる。和輝も尊敬する野球選手は誰ですかとあざとい質問に、意図を理解した上で「兄です」と綺麗に笑うと思う。この二人はきっと、何年経っても心配性な兄と、兄思いな弟であって欲しい。



「奈々が好きなんだよ、世界中の誰よりも」
15.和輝と奈々
 奈々は可愛いけれど、女子からはぶりっ子とか男好きとか囁かれて嫌われていた。奈々はぶりっ子でも男好きでもなく、ただ和輝だけが好きで、他の人間はまるで眼中になかった。盲目的に和輝だけを慕っていた奈々の一途さは、周囲の子どもに理解できなかったし、奈々もそれを求めなかった。孤立しても、和輝がいれば大丈夫と言える奈々の神経は誰よりも図太い。
 恋愛に関して和輝は本当に幼くて、初恋すら危ういと思う。恋バナ? 好きな人? そんなのいいから野球しようぜ!
 モテるのが当たり前の和輝は人の慕情に疎く、或る意味罪深く、可哀想な人間でもある。けれど、年相応に煩悩もあって箕輪とエロ本やAVを鑑賞したり、性癖を打ち明けたり明け透けなところもある。
 奈々は年齢上に成熟している部分もあるが、和輝がマイナスなので、所謂プラマイゼロの関係。長い交際を経て結婚するような堅実な未来を二人には歩んで欲しい。自分の恋を自覚したら、和輝は手が触れただけで真っ赤になったり、会話がぎこちなくなったりする時期がありそう。奈々に怒られて、反省して、吹っ切れたら和輝は付き合う前のようになって、また奈々がやきもきしそう。けれど、ピュアな二人でいて欲しい。



「笑っていれば、必ず助けてくれる仲間に出逢える。支えてくれる友達が得られる。だから、どんな時も笑ってろ。伸ばされる手に気付ける人間に、なれ」
16.和輝と裕
 和輝の父、蜂谷家の大黒柱である蜂谷裕は、前作stage of the ground.の主人公。低身長や抜群の運動神経、貪欲な向上心、不屈の精神は父親譲り。驚異的な集中力も恐らくきっと、父と同じ。ちなみに、バッターボックスに入る前のジンクスも同じ。
 裕は妻が命を懸けて産んだ息子を心底愛しているし、信じている。息子が一時は自殺未遂を計った時には相当追い込まれたと思う。和輝を連れて日本を出ようかとも考えた。けれど、中学を卒業した時の和輝が戦うと言ったことを覚えていたから、彼がこの地で生きていける道を文字通り必死に模索した。
 縁の下の力持ち。裕が父親でなかったら、和輝は生きていられなかっただろうと思う。裕は相変わらず臨床心理会の権威で、全国を忙しく飛び回るカウンセラー。あらゆる方面にコネのある謎の男でもある。



「俺は時々、お前が本当のヒーローなんじゃないかって思うんだぜ」
17.和輝と高槻
 高槻は和輝にとって最大の恩人で、尊敬する先輩。中学時代、先輩に恵まれなかった和輝にとって高槻は信頼とは何か教えてくれた本当に頼りになる先輩だった。高槻も和輝の存在は失った弟が生き返ったようで救いであったし、執着でもあった。
 同い年だったら、きっと解り合えなかった。むしろ、高槻が一方的に嫌悪しそうな二人。
 高槻は意外とコミュニケーション能力が高く頭も良いので、大手企業に就職して順調に昇進していきそう。偶に帰国する和輝とは居酒屋であって、互いの近況を報告する。高槻は酒弱そう。和輝は多分、ザルを越えて枠ではないかと。



「お前が、信じてくれるから!」
18.和輝と匠
 第三部は、和輝と匠のお話。
 この二人は幼馴染で親友でライバルというある種、歪んだ関係。番外編でも書いているので詳細は割愛。
 和輝は帰国したら連絡も取らず真っ直ぐ匠の元に行く。匠は事前に連絡しろと言いながら、予定を調節して和輝に合わせてくれる。この二人は学校や部活だけでなく、ずっと一緒にいるので変な噂が流れていそう。匠は不満げに言い返すけれど、和輝は人の噂なんて七十五日だろ、なんて笑っている。結局ずっと一緒にいるので、噂は何処にいても付き纏うけれど、離れようとは考えもしない。
 匠は無難に就職して勝ち組人生を歩むけれど、常に和輝を気に掛けてハラハラしているので、案外勝ち組でもないのかも知れない。それでもいいと思える程度には和輝のことを大切にしている。