「ダウト」
歌うように高らかに、踊るように軽快に、死刑宣告のように一言一句間違うことのないようはっきりと告げた少年は、整った相貌に清々しい程に美しい笑みを浮かべて言った。
一瞬の沈黙に秒針が固い音を奏で、俺は終に舌打ちを漏らした。
「……ちくしょう」
それが切欠であったように周囲を満たした沈黙は途端に霧散し、今度は弾けるように笑い声で溢れ返った。
一つの机を中心に出来上がっていた輪はその形状を保ちながら、海底に生きる海藻のように笑い声に揺れた。
ダセェ。またかよ。すげーな。やっぱり敵わねーよ。
親しみの上に並べられる賞賛と罵倒。机上のトランプの山を自棄になって掻き集めれば、死刑宣告を下した少年はしたり顔で此方を見て笑いを噛み殺している。大きな目が歪められながら寄せられて行くカードを見下ろし、弧を描いていた口を僅かに開く。
最後に残された一枚のカードを、此方が見惚れてしまうような精練された一切の無駄の無いゆっくりとした動作で机上に提示する。
「ジャック。……上がりだ」
裏面に印刷された謎の兎とも犬とも付かないキャラクターが薄ら笑いを浮かべている。まるで此方を小馬鹿にしているようだ。
隣の少年が負け惜しみのように嘘を摘発する。けれど、和輝は口元に浮かべた笑みを崩すことなくカードを裏返す。其処にいたのはクローバーのジャック。円卓の騎士が胡乱な眼差しで映り込んでいる。
おおー。
取り囲む級友が感嘆の息を漏らし、拍手を送る。勝ち抜けた和輝が見せ付けるようなガッツポーズを向けるが、納得が行かず、続いて行く勝負には心此処に非ずといった調子だった。
結局、最下位だった。一位でなければ二位も最下位も同じだと思っていたからそんな順位には最早拘るつもりも無かった。高がカードゲーム、されどカードゲーム。何より、和輝に目の前で一位を勝ち取られたことが悔しくて堪らなかった。
ダウト、というゲームを知っているだろうか。一組のカードを均等に振り分け、順番に裏にしてAからKを順に出していく。当然、自分の手札に対応するものが無いこともある。故に常に対応するカードを出す必要は無い。嘘を交えながらカードを出し、最も早く手札を失くした者が勝者となる。プレイヤーは互いの手の内を探り合い、提示されたカードでないと思ったらこう宣言するのだ。ダウト。嘘が見破られれば先程の自分のように、中央に積まれるカードの山を全て手札に加えなければならない。簡単に言うと、互いの嘘を見抜くゲームだ。
そして、俺は和輝がこのゲームで負けるところを見たことがない。既に八連勝という戦歴を残している和輝は余裕綽々に机上を取り囲む級友達と談笑している。
「何であいつ、強ぇんだろうなー」
掻き集めたカードを切りながら、一人の少年が言った。周りの級友も賛同するように頷く。
そんなこと、俺が訊きたい。俺達の和輝への認識は共通して『馬鹿』だ。どんなテストでも和輝より劣る人間を俺は見たことが無い。時々、こいつの頭の中には何が入っているんだろうと割と本気で心配になる。クラスの担任の悩みの種は専ら蜂谷和輝の馬鹿さ加減だ。余りの勉強の出来なさは最早一種の才能ではないかと思う。
じとり、と俺が睨むと和輝は可笑しくて堪らないと大口を開けて笑う。
「お前等の嘘なんか、顔見てりゃ一発で解るんだよ」
またもあのしたり顔で言い放ち、和輝が笑う。その自信たっぷりに言い放つ様も何処か絵になっていて、怒りや嫉妬を覚える隙も無い。周囲の女子が黄色い声を上げ、男子が冗談交じりに小突く。何時でも和輝は皆の中心にいるヒーローだった。
小学校三年生の春だった。入学して初めて受けるクラス替えに緊張したのは当日の朝だけで、教室を開ければ何時もの面子が揃って自分達を出迎えた。当然のように同じクラスに配属された幼馴染に安心と落胆の混じり合った何とも言えない心地であったことを今も覚えている。思えば、クラスどころか学校一残念な脳味噌を持つ和輝の面倒を見られるのは俺以外に存在しなかった。そういう訳で、俺は主に和輝の教育係として常にワンセットだった。
俺達がカードゲームに興じていたこの日は、実は長閑なこの界隈では中々大きな事件のあった日だった。俺達の通う小学校から遠くない場所で、出刃包丁を携えた中年の女性がこの小学校の場所を訊きながらうろうろしていたそうだ。昨今の日本を思えば十分在り得る事態だったのかも知れないけれど、平和ボケした俺達は警察が出張り、授業が自習に替わったこの状況が楽しくて仕方なかった。中にはその女性を探してやろうなんて馬鹿な生徒もいたと思う。
教師陣の緊急会議の結果、生徒の安全を考慮し、その日は警官と教師の警備の元、下校となった。それがクラス担任から知らされた時はお祭り騒ぎだった。
集団下校ということで、家が近い者同士が固まって下校する。兄のいる俺達は必然的に兄、幼馴染と一緒に帰ることになった。
昇降口では俺の兄、浩太が待っていた。心底面倒臭そうな顔をして、溜息交じりに名前を呼ぶ。俺だって一緒に帰りたくねーよ。声には出さずに上履きを履き替えていると、兄の隣に和輝の兄である祐輝が立っていた。
和輝の兄は所謂チートだと、俺は思う。頭が良くて運動神経抜群で、顔も良くて性格も良い。友達も多い。俺の兄と比べて、祐輝君は嫌な顔一つしないで和輝を迎えに来てくれて、当たり前のように荷物を持ってくれて、さり気無く車道側を歩いてくれるような兄だ。和輝のことを少し過保護じゃないかと思うくらい大切にしている。勿論、祐輝君は俺にも優しいし、話していると話題も尽きないし面白い。
でも、俺は祐輝君が余り得意ではなかった。
帰宅後、外出など以ての外だと再三言われたというのに、和輝は当たり前のように俺の家に遊びに来た。細い道を一つ挟んだ向こう隣りの家へ行くのに危険があるとは思えないけれど、中々物騒な事件が起きているのにテレビゲームのカセットを幾つも抱えてやって来る和輝は大物か、大馬鹿かのどちらかだと思う。(ちなみに俺は、後者だと思っている)
けれど、退屈していたのは事実だったので、和輝の抱えて来たゲームをすることに決めた。コンピュータを交えた四人対戦の勝ち抜き戦でゲームで個人戦を展開しながら、敵を追い詰めて行く。俺が和輝に負けることは殆ど無い。コンピュータを倒した後に和輝を追い詰めると、呆気無く自爆した。
あー!
声を上げた和輝に、GAME OVERの文字が付き付けられる。勝者は一人、この俺だ。
叫んだ勢いのまま後ろに倒れ込んだ和輝が悔しそうに「ちくしょう」と言った。負けることが日常茶飯事の和輝だが、幾ら負けても追い詰められても諦めない。そういうところが、俺は嫌いではなかった。最後の最後まで諦めない和輝は、稀にとんでもないどんでん返しを仕掛けて来ることがある。予想外だ。本当にこいつは面白い。
母が用意した和輝用のグラスの中で、氷が音を立てた。倒れ込んだ和輝が起き上らないので、俺は何時までも勝負の結果を映し出すゲームの電源を落とした。静寂が部屋を包み込むけれど、居心地が悪くなることは無い。
俺はグラスに麦茶を注ぎ、一口飲み下した。頭が痛くなる程冷たかった。
黙って天井を見詰めている和輝は何も言わない。何かを考え込んでいる気配は無かった。ぼーっとしているだけだろう。今日の集団下校を思い出して、俺は何と無く和輝に訊いてみたくなった。
「なあ、和輝。祐輝君ってさー」
「うん」
「何か、お前に過保護じゃねえ?」
俺の兄貴はむしろ邪魔者扱いして来るのに。
自分の愚痴のつもりで言った言葉に、和輝は黙った。肌を刺すような緊張を感じて思わず視線を遣ると和輝は少しだけ笑っていた。
「それは、あれだよ。俺が弱っちいから、つい世話焼いちまうんだよ」
「そうかー?」
その気持ちは解らなくも無かったけれど、俺は違うような気もした。
詳しいことは解らないけれど、小さい頃の和輝はとても病弱で、碌に家から出ることも出来なかった。俺達が遊びに行くのを何時も見付からないように隠れて見詰めていた。生まれた時から一緒にいた幼馴染が外出すら出来ないものだから、俺達は自然と室内に籠って遊ぶことが多かった。そんな俺を祐輝君はよく外に連れ出してくれたけれど、置いて行かれる和輝を思えばその誘いに乗ることは簡単に出来なかった。
自分のせいで俺が外で遊べないと、和輝が隠れてしまった時があった。結局、和輝は階段下の暗い物置の奥で丸まっていた。
真冬に何時間も独り暗闇に隠れていた和輝は、「僕なんかのせいで匠が楽しくないのは嫌だ」と初めて声を上げて泣いた。そういう遠慮や勘違いをされることが、俺は堪らなく嫌だった。俺は好きで和輝と一緒にいるのに、外で遊ぶより和輝と一緒にいるのが楽しいのに、如何してそんなことを思うんだろう。如何して俺の為にこいつが独りぼっちにならなきゃいけなかったんだろう。
冷たくて暗い物置の中で独りきりで、こいつはどんなに心細かっただろう。俺が見付けるまで、どんな気持ちで膝を抱えていたんだろう。そう思うと、何故だか俺も泣けてしまって。
和輝と一緒にいたいんだよ。一緒にいれば楽しいんだよ。何で解んねーんだよ。
二人で声を上げて泣いた。呆れたように兄貴が俺と和輝を撫でてくれた。和輝の姉が抱き締めてくれた。祐輝君だけが其処から立ち去った。
そうだ、祐輝君は、和輝のことが嫌いだった。
思い出すと同時に、まるで掌を返したような今の祐輝君に腹が立った。だから俺は、祐輝君が好きじゃないんだ。
それを言おうと口を開くと、まるで此方の考えを読み取ったように、寝そべったままの和輝が悲しそうに笑った。小学三年生の男子が浮かべるにしては哀し過ぎる微笑みだったことを覚えている。
「俺が悪いんだ」
だから、兄ちゃんを責めないで。
そんな和輝の声が聞こえた気がして俺は黙った。だけど、どんな理由があったって、和輝がそんな顔をしなければならない理由にはならないと思った。
それでも、和輝は絶対に祐輝君を責めないだろうと解っていた。碌に兄弟喧嘩すらしたことの無い彼等の間に何があるのか、俺は何も知らなかった。
「弱っちい俺が、いけない」
確かに祐輝君は、和輝が上級生に叩かれれば飛んで来るし、熱を出せばすぐさまおんぶして連れて帰るし、今日みたいな集団下校になれば一番に迎えに来る。皆は祐輝君のことを出来た兄貴だって言うし、俺もそう思う。それでも、幼い頃の二人が今も俺の中に深く根付いていて、如何しても今の二人を受け入れられなかった。
和輝がこんな顔しなきゃいけない理由が祐輝君なら、俺は祐輝君だって許さない。
「だったら、強くなるしかねーよ」
そう言うと、和輝は酷く驚いたような顔をした。
「祐輝君が心配する必要も無いくらい、強くなってやろうぜ。そんで見返してやろうぜ」
俺にしてみれば極自然な結論だったのだけど、和輝はそれにとても感動したらしく、大きな目を真ん丸にしてきらきらと輝かせた。
その日を境に、和輝は変わっていった。それは言った俺自身が後悔してしまう程に。
1.四葉のクローバー
俺達が野球を始めたのは小学校に入ってからだ。遊びの一環として兄達とキャッチボールをすることは時たまあったけれど、少なくとも和輝がボールに触れたり、グラウンドを駆けたのはそれが初めてだった。初めて体験する広い世界に瞳を輝かせたことを今でも覚えている。
そして、三年も続けていればそれなりに上達するもので、俺達は兄に習って地元の強豪シニアチーム、橘シニアに所属することとなった。橘シニアは実力至上主義で、実力さえあれば年齢に関係無くレギュラーになることが出来た。練習は厳しかったけれど、頑張った分だけ結果が出て評価されるというのはとても解り易くてやる気にも繋がった。そういう訳で、兄は中学生を押し退けてレギュラーバッテリーとして活躍していた。そして、昨年の秋の昇格試験で如何にか俺は補欠に選ばれた。
嬉しかった。初めてもらった背番号を見せびらかして回った。和輝は自分のことのように喜んで、抱き着いて転げ回って「おめでとう」と言ってくれた。
和輝は何時まで経っても昇格出来なかった。それまで運動一つ碌にして来なかったのだから、仕方が無いことだと解っていた。けれど、和輝には所謂、才能というものがあった。
例えば投球も、一度人のフォームを見ればそっくりそのまま投げることが出来た。バッティングだって力負けすることはあっても、見送り三振することなんてまず無い。守備にしたって慌てる事無く冷静に打球を捌いた。特筆すべきはその走力で、小学校三年の和輝より速い選手は橘シニアにはいなかった。元来の俊足と目の良さは十分武器になるものだ。ただし、和輝には如何しても足りなかったものがあった。それが、体格と持久力だった。
和輝は小さかった。外出の出来ない和輝は小食だった。それが原因だろうと俺は思う。
結局、どんなにいい成績を残したってそれを理由に何時も試験を落とされてしまうのだ。
俺達は自主練習を始めた。時間さえあればマラソンをした。筋トレをした。和輝を正当に評価してくれない監督を見返してやりたいという思いもあった。だけど、それ以上に、俺は和輝と一緒にプレーしたかった。
ずっと一緒に過ごした俺達は、何と無くお互いが何を考えているか解る。自主練習した後なんかは同じタイミングで腹が鳴るし、休憩を切り出すのも一緒だ。野球じゃ、俺達のいる三遊間は無敵だ。背中を向けていても和輝への送球は外れたことがない。逆もまた然りだ。そういう連携を見せても、和輝が昇格することは無かったけれど。
如何して和輝が評価されないのか不思議だった。だってそうだろ?
才能があって、意欲があって、努力もしてる。それなのに、ちょっと体格に恵まれなくて体力が無いくらいで否定されるなんて不公平だ。兎に角、俺は和輝と一緒に野球がしたくて、監督に食って掛かることも屡だった。
そんな時、幼馴染の紅一点、奈々が言った。
「一緒に、四葉のクローバーを探そう!」
俺は、こいつ何言ってんだと思った。
四葉のクローバーを見付けたら幸せになれる。そういう迷信が女子は好きだった。俺は呆れたけれど、奈々が強引に和輝の手を引いて家の傍の空き地に連れて行くので仕方なく付いて行った。
ブロック塀に囲まれた空き地は雑草で生い茂っていた。その隅、緑の絨毯のようにシロツメクサが生えていた。
この中からあるかどうかも解らない四葉を探すのか?
その途方も無い無謀な挑戦をするくらいなら、自主練を続けた方が遥かに有意義だった。和輝の目が点になっていた。でも、奈々が妙に意気込んでシロツメクサを掻き分け始めたのを見て、観念したように肩を竦めた。
和輝もしゃがみ込んで地面に目を凝らし始めた。
「冗談だろ?」
四葉を探し始める二人の背中に問い掛ける。奈々が振り返った。
「探せば見つかるよ! ……だって、悔しいもん。和輝はあんなに頑張ってるのに」
俺達の自主練を、奈々は何時も傍で見ていた。不当な評価に腹を立てていたのは俺だけじゃ無かったらしい。
こうなった奈々を止めるのは殆ど不可能だ。とっくに覚悟を決めた和輝の小さい手がシロツメクサの中に埋まっている。昨日の自主練で、肉刺を潰してしまった和輝の手には絆創膏が貼られていた。
俺も現状には苛々していたけど、奈々の突拍子も無い提案を受け入れられる程、柔軟な訳でも無かった。
嘘だ。本当なら俺と自主練している筈なのに、奈々に和輝が取られてしまったみたいで悔しかった。
「見付かんねーよ。さっさと練習しようぜ」
そう言って和輝の腕を引っ張った。和輝は振り払いはしなかったけれど、動こうともしなかった。
「ほら、行くぞ」
和輝は困ったように笑った。
こういう時、和輝は結構、優柔不断だ。互いの顔を立ててやりたいのだ。きっと和輝は自分の体が二つあればいいのに、と思っただろう。
でも、まるで和輝が俺の我儘に仕方が無いな、と苦笑してるみたいに見えた。俺は和輝の為に言ってやってるのに。四葉のクローバーなんて馬鹿らしい。それが見付かったって昇格出来る保証なんて無い。時間と労力の無駄だ。奈々はお前と一緒にいたいだけなんだ。何で解ってくれないんだよ。
「和輝!」
思わず、叫んだ。
でも、和輝は動かなかった。一言。
「ごめんな」
と言った。
何だよそれ。俺より、奈々を取る訳?
俺が手を離すと和輝はそのまま地面に手を下ろした。
俺はお前の為にやってるのに!
そう思ったら堪らなくなって、叫んでいた。
「勝手にしろ!」
和輝が振り返るのが解った。
もう和輝なんて知らない。レギュラーになれなくても知らない。もう一緒にゲームしてやらない。俺がいなくなって後悔すればいい。お前には俺しかいないだろ。何で俺の言うこと聞いてくれないんだよ。
その勢いのまま空き地を飛び出した。もしかしたら和輝が追い掛けて来てくれるんじゃないかと期待して、立ち止まる。そして、俺が振り返るより早く、普段聞かないような和輝の大声が界隈に響き渡った。
「匠!」
鈍い音がした。
コマ送りみたいに、その瞬間が切り取られて流れていく。限界まで目を見開いた和輝が駆けて来る。奈々は今にも倒れそうに真っ青になって悲鳴を上げる。
俺の体はスクーターに衝突し、道路に投げ出された。痛みを感じる間も無く視界の端に、止めを刺しに来たような乗用車が見えた。
動けなかった。こんなことは初めてだった。
ブレーキを踏む高音が断末魔のように鳴り響いて、俺の体は何かに吸い寄せられた。鼓膜を貫くような高音の中で、俺の体は飛び出した空き地に逆戻りしていた。
何が起こったのか解らなかった。ただ、右腕が切り落とされてしまったかのように、自分の意思で動かすことが出来なかった。体中がバラバラになりそうな痛みに呻き、泣いた。
「匠! 匠!」
縋り付いて叫び続ける和輝は血塗れだった。
如何して和輝が怪我をしたんだろうと思って、気付く。それは俺の血だった。
何が何だか解らなかった。痛くて、痛くて、辛くて、苦しくて。俺を呼び続ける和輝の手を泣きながら握り締めた。奈々は声を上げて泣いた。
救急車はすぐにやって来た。忙しなく流れていく状況に取り残されて、俺の意識は其処で途絶えた。
最後に映った視界の中で、和輝が茫然と立ち尽くしていた。
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