合宿最終日は、予定通りに練習試合が行われる。二日間の地獄のようなトレーニングの為に筋肉痛で全身が軋むように痛んだ。万全とは言えないこの状態で何処までの試合が展開出来るのだろうと聊か不安ではあったけれど、我らがキャプテンはやはり何事も無かったかのように堂々と仲間の前で振る舞っている。
 練習とはいえ、試合の前に仲間へ向ける言葉は無い。ただ、いつも通りやろうと微笑んだだけだった。
 相手方ベンチを見れば、やはりトレーニングが利いているのか鈍い動きと疲労感が漂っている。ただ、唯一蝶名林皐月だけが酷く退屈そうな仏頂面でスパイクの紐を結んでいた。
 入念なストレッチとアップを熟し、軽いノックを終えれば試合開始は目前だ。直前にも言葉を掛けないのだから、この試合中、和輝は仲間へ手向けの言葉など贈りはしないだろう。
 視線で追っていたことに気付いたのか、半身になって振り返った和輝が小首を傾げる。平静と変わらぬ穏やかな相貌は相変わらず憎たらしいくらい整っていて、女子なら一目惚れも十分あり得るだろう。此方に向って子どもっぽく笑い掛けて和輝が言った。


「また皐月と戦えるなんて、腕が鳴るなぁ」


 何処までも嬉しそうな和輝に邪気は無い。純粋にこの試合を楽しみにしているのだろう。
 元チームメイトとは言え、自分を崇拝する友達というのは如何なものだろう。広いグラウンド越しに視線が合ったらしい和輝と皐月が微笑ましく軽く手を振り合っている。見ている分には実に平和的な光景なのに、皐月は自分に気付くと酷く忌々しげに顔を歪ませる。俺が何したってんだ。
 中学最後の引退試合から距離を置くようになった俺と和輝。和輝が本気で絶望し掛けた時に傍にいられなかった俺を、今更になって戻って来た俺を皐月は憎んでいる。昨年の対戦の折、少しは昇華出来たと思っていたのはやはり独り善がりだったらしい。
 試合が始まる。武蔵商業の監督の声によってグラウンドに整列する。向かい合った先にいたのは北原だった。
 プレイボール。
 和輝が相変わらずの強運で引き当てた後攻の為、晴海ナインはグラウンドに散って行く。昨年の因果を思い起こさせるように先発は醍醐環。対するは武蔵商業最速のプレイヤー、一番、蝶名林皐月。
 皐月がグラウンドに人懐こい笑みを見せる。宜しくお願いします、と口元で零された言葉は真摯であるのに、昏い色を浮かべる瞳に寒気がする。
 初球は皐月を警戒してかボールだ。バットを殆ど肩に担いだまま視線すら向けず、皐月が見送る。ボールを予期していたのかも知れない。審判の宣告が追い掛ける。
 足元からじりじりと熱が上がって来る。今日も暑くなるだろう。頭皮にじわりと汗が滲むような気がして帽子のツバを下げる。
 二球目。低めに外されたボールを、まるで何でもないようにさらりと転がす。軽い音と共に落下した白球は狙ったのか投手と捕手の間、絶妙な位置に転がって停止した。飛び出した醍醐が拾い上げて振り返った先、一塁上では夏川が両手を交差していた。滑り込む必要も無いと皐月が軽い屈伸運動をしていた。
 最速の、最強の走者が出ている。失点を防ぐことは困難だが、不可能ではない。武蔵商業の切り込み隊長である皐月が本塁に還れば追撃があることは間違いない。武蔵商業の打線に火を点けるのも嫌だ。
 二番打者以降が送ってくるのは目に見えている。如何する。捕手を見遣れば、キャッチャーマスクの下で蓮見は無表情にサインを出していた。
 大切なのは失点を防ぐことではない。追撃を許さないことだ。そう断言出来るだけ、皐月の出塁率は異常と言っても過言でない領域に達している。送りバントでワンナウト取れるのなら願ったり叶ったりだ。蓮見のサインは長年組んで来た醍醐にしか解らないけれど、同意見らしく、バントの構えをする二番打者、古谷へストライク指示だった。
 打者を打ち取る気の無いボールは手堅いコースに打ち返されたが、素早い醍醐の対応に一塁でアウトを一つ獲得する。ワンナウト、ランナー二塁。やはり滑り込む気もないらしい皐月は欠伸を噛み殺していた。
 三番は北原だった。武蔵商業の彼を呼ぶ「隆吾」という声援が掛かる。北原が微笑んだ。
 当然、送って来るだろう。バントに構えた北原への対応は変わらない。放たれたストレート。けれど、北原はバットをヒットの直前に引き戻した。
 ヒッティングに切り替えられたバットにグラウンドに緊張が走る。バントで進塁。ヒットならば皐月は確実に還って来る。グラウンドに叩き付けられた打球が三塁線に浮かび上がる――、刹那。
 乾いた地面を蹴った和輝が跳び上がると、内野を越すと思われた打球をそのグラブの中に収めた。ステップすら無用だと着地する前に左腕は振り切られファーストミットに飛び込んだ。
 ツーアウト。三塁上で侵攻を止めた皐月が俄かに驚いた顔をして、酷く嬉しそうに口角を釣り上げて笑った。本塁は阻んだが、それでも皐月はスコアリングポジションに立っている。
 地面に着いた膝の土を払い落としながら和輝は肩を竦めた。三塁上に立つ皐月。カバーに入ったまま、主と入れ替わる為にポジションに戻ろうと足を動かせば、歓喜に満ちた皐月の独白のような声が聞こえた。


「本当に、和輝はすごい。――流石、俺の神様だ」


 神様。知っている。皐月は和輝を、神様だと言っている。
 神聖視して崇めるその様は異常だ。当人達だけが、それを何でもないことのように許容している。奇妙な関係を続ける彼等を不気味と思いながら、苛立つ。普通の神経で、如何してそれを受け入れられるだろうか。
 続く四番はキャプテンの山城健太郎。キャッチャーらしい厚みのある大きな体格で、醍醐の放ったボール球をピッチャー返しする。痛烈なライナーとなった打球は醍醐の前に落下した。醍醐が拾い上げて一塁に送球すれば、一塁はアウトであったが終に先取点を許す結果となる。
 一回の表は一つ失点を負い、終わった。
 小走りに晴海ナインはベンチに戻って行く。強豪である武蔵商業相手に初回を一点で収められたのは計画通りだ。失点を悔やむ理由は無い。
 晴海のトップバッターである和輝は初回の攻撃に向けての作戦もそこそこに、旋風のようにベンチを出て行こうとする。まるで何かに急かされるような足取りに違和感を覚え、思わず肩を掴んで引き留めてしまう。驚いたように目を見開いた和輝が振り返り、此方の存在を視認すると同時に人懐こく微笑んだ。


「武蔵商業の切り込み隊長が皐月なら、晴海の切り込み隊長は俺だろ?」


 此方の行動を心配と捉えたらしい和輝が言った。
 今更、和輝のプレーに不安は無い。唯一の懸念だった右肩の故障も左に転向して二年のリハビリによって落ち着いて来ている。ただ、唯一心残りがあるとすれば。


「皐月は、」


 元チームメイト。それでも、皐月は何かが違う。
 考えを上手く言葉で表現出来ず、口籠れば和輝は目聡く気付いて力無く笑った。それは何かを諦めるような、許すような微笑みだった。


「皐月は皐月だよ。ずっと、何も変わらない」


 沈黙を肯定的に受け止めたらしい和輝が言った。


「俺はもう、二度とあいつを置いて行きたくないんだ」


 それきり、歩き出した和輝は振り返らなかった。
 バッターボックスに蜂谷和輝。恐らく高校球界最速の一番打者だ。対峙するピッチャーは武蔵商業三年、桑名誠。恵まれた体格を生かした剛速球を武器に、これまで武蔵商業を勝利に導いて来た。打者と投手の体格差は大人と子どもと呼んでも過言ではないだろう。象の前の蟻。だが、俺達のキャプテンは全ての予測と過信を幾つも打ち砕いて来た。
 初球、速球派とのたまうだけの強力なストレートがキャッチャーミットに突き刺さる。乾いた音がグラウンドに反響した。ストライク。球審の告げたそれに眉一つ動かさず、和輝は首を倒して関節を鳴らす。キャッチャーからの返球を受けたピッチャーが、そのリズムを崩さぬようにと素早くモーションを取る。
 速球――。桑名の指先から白球が離れるその刹那、和輝の目がすっと細められた。ふわりと浮かび上がった右足が、ヒットの瞬間、強く踏み締められる。そして、鋭い音が鳴り響いたかと思うと打ち放った白球は脱兎の如くグラウンドへ飛び出していた。
 ピッチャー横を擦り抜けた白球が内野を抜ける。鋭いライナーは二遊間を抜け、センター前に落球した。容易く一塁を蹴った和輝が二塁を踏み締める。余裕のスタンディングダブルに晴海ベンチは否が応にも盛り上がった。
 続く箕輪の送りバントで、晴海高校もスコアリングポジションに走者が立った。ワンナウト、ランナー三塁。続く打者は三番、星原千明。
 打席に立った千明の口元が弧を描く。嬉しくて仕方が無い。まるで、和輝みたいだと思った。
 何が嬉しいのだろう。皐月と試合出来ることが、嬉しいのか。それとも。


(ああ、そうか)


 三塁、スコアリングポジション。その場所に立った和輝を本塁へ還せるということが、真っ直ぐな信頼を向けて来るキャプテンを自分達の元へ帰せるということが嬉しいのだ。
 初球。放たれた速球を星原が鋭く打ち返す。打球は一直線に一塁線上を駆け抜け、そして、ライト前から跳ね上がる。長打コース。三塁ランナー、和輝が静かに本塁へ帰還する。
 グラウンドで続くプレーの中で、振り返った和輝が二塁上の星原を見た。交わった視線は何処か懐かしく、力強かった。



風見鶏(3)




 金魚の糞だと、罵ったのは誰だっただろうか。
 中学二年生の夏が終わる頃から、和輝の傍に現れるようになった皐月に対する周囲の風当たりはきつかった。天才だと持て囃される和輝に、お零れ目当てのハイエナ紛いなチームメイトがうろつくことは日常茶飯事だったのだけれど、皐月のそれは何かが異なっていた。
 纏わり付く周囲を見渡して、少しだけ困ったように眉を下げる和輝を知っている。ハイエナ共への諦念や侮蔑は当然の感情だと思うけれど、それを表面上にはおくびにも出さない対応は精練されていた。そんな和輝が皐月に向ける感情は明らかに異なっていて、それは俺達と同じチームメイトへの信頼であり、そして。


「皐月には、申し訳ないことをしちまった」


 ふと意識が急浮上する。
 試合は既に終盤に差し掛かり、初得点以来勝負は動かず、所謂膠着状態だった。八回裏、延長戦が無ければ引き分けも有り得るかとぼんやり思う。ワンナウト・ランナー無し。互いの切り込み隊長がいなければ出塁さえ儘ならないという情けない事態ではあったが、それでも手繰り寄せあう勝利への糸が繋がり掛けては切り離される、そんな試合展開は緊張感が満ちていた。
 八番、夏川が打ち返した直球はぼてぼてのゴロとなってピッチャー真正面に落球した。夏川が一塁に届く間も無く流れるようなステップを踏んだ投手が送球し、ツーアウト。
 ベンチからグラウンドを見詰める和輝の視線は鋭い。感情をごっそり切り落としてしまったような無表情に滲む冷たさの真意は解らない。膝の上で組んだ指先に微かに力が籠められる。その視線に気付いたようで和輝は漸く表情を緩ませ、ばつが悪そうに言った。


「刷り込みなんだよ」


 意味が解らずに言葉を鸚鵡返しすると、肯定するように和輝が頷いた。
 グラウンドから戻った夏川はヘルメットのツバを下げている。先程の凡打に対する罪悪感だろう。和輝は擦れ違い様に夏川の肩を軽く叩き、何も言わなかった。無用な言葉を掛けないのも、軽く触れるにしても利き腕を外すのも、和輝だからこその気遣いで、キャプテンたる所以だろう。
 ネクストに向かうべく、和輝がバットを左腕に下げて立ち上がった。


「俺を神様だなんて、言うのはさ」


 意味が解らない。刷り込みというのは、鳥が生まれて初めて見るものを親だと思い込むという習性のことだ。チームメイトに対してそう感じる意味が知りたかった。
 和輝はまた無表情に戻っていた。


「俺の自己満足に、皐月を付き合わせちまったんだ。……だからもう、好い加減その暗示を解いてやらなきゃいけない」


 顔を上げた和輝の瞳に、鋭く射抜くような光が宿っていた。
 背中を向けて歩き出す和輝。グラウンドではバッターボックスに蓮見がいる。
 カウントは2−1となり、追い詰められた蓮見が口元を僅かに歪めてピッチャーを睨む。普段は飄々として、感情の読み難い少年ではあるが、試合中はふとした瞬間にそれが滲む。
 追い詰められている。後輩の背中に何か声を掛けるべきかと、叱咤激励を逡巡する間に蓮見はほんの一瞬だけ視線をこ此方に向けた。――否、キャプテンの元に。
 監督のいない晴海高校の司令塔は専ら和輝だ。守備で全体へ指示を出すのは二年の蓮見であるが、最終的な判断は和輝に一任されている。学力としては底辺だが、ここぞと言うときの勝負強さは誰もが知る所であり、異存は無い。
 ベンチに不在であっても、蓮見は和輝へ視線を送る。
 和輝の指示は無い。ただ、口元に薄く笑みを浮かべるだけだった。

 打っていけ。
 単純な指示だが、その裏には蓮見への信頼が窺える。尤も、此処で三者凡退に終わっても九回裏最後の攻撃はランナーという障壁無く和輝から始まるので、打っても打たなくてもいいというのが状況判断からの本心だろう。
 けれど、二人の視線が交差したと思った瞬間、釣られるようにして蓮見が笑ったように見えた。
 そして蓮見は、キャプテンの指示通りヒットを打ち放った。久しぶりの出塁にベンチが沸き立つ。その中でバッターボックスに現れるのは蜂谷和輝だった。
 ピリリ、と山椒を噛み潰したような緊張感がグラウンドに広がる。此処が転換点だと、これまで培って来た全てが訴え掛ける。
 暗示を解いてやると言った和輝を思い出す。
 ツーアウト・ランナー一塁。和輝にとっては最悪の状況だろう。己自身で進塁する術も無ければ、一打でランナーを還せる力も無い。それでも、前を見据える和輝に迷いは無いようだった。
 初球、出会い頭の一球を躊躇無く叩いた。視線一つ向けられていないのに皐月の表情は引き付いたまま凍り付いている。その一打に込められた意味が、解るだろうか。
 一塁真正面に向かったかと思われた打球はその痩躯から放たれたとは思えない程に力強く、鋭く内野を抜き放った。強烈なライナーに和輝が一瞬、顔を苦痛に歪ませる。打球はライトとセンターの間を縫うように落下すると跳ね上がった。
 これを狙ったのか?
 蓮見が三塁を蹴った。追い付いたセンター、皐月が三塁へ投げるが間に合わない。一塁走者、蓮見が生還。送球の狙う先は蓮見ではない。
 三塁コーチャーは腕を回している。本塁が獲れると、確信しているのだ。
 指示に従った和輝が三塁を蹴った。数瞬遅れた送球。挟まれた和輝に迷いは無い。
 本塁に滑り込んだ和輝、眼球が転がり落ちてしまいそうに見開く皐月。


「セーフ!」


 審判の宣告と共に、晴海ナインが拳を突き上げた。
 八回裏、二得点。
 沸き立つベンチと悔しげに口元を歪ませるグラウンド。けれど、その中でただ一つ。

 ぽとり、と。
 呆気無く落下した使い込まれたグラブ。ホームベースから起き上がった和輝の視線の先を追い掛けて、外野手、皐月の元へ辿り付く。死人のような蒼白の顔で、微かに口が開かれたのが見えた。
 この距離で届く訳が無いと理解しているのに、皐月の言葉を知っていた。
 じっと見据える和輝に表情は無かった。
 二番、箕輪が凡打に打ち取られると終に試合は最終回を迎えた。妙な緊張感も、二点リードの高揚感に浸っていると、それは嵐のように訪れた。


「――和輝ッ!」


 突然の来訪者と、ベンチを蹴り倒すような轟音に誰もが肩を跳ねさせた。飛び込んで来た小さな少年にぎくりとする。
 皐月が、息を荒げながら此方を呪殺するような鋭い目に息を呑む。其処に在るのは髪が逆立つほどの憤怒だった。
 ずかずかと騒然となる敵のベンチに入って来たかと思うと、周囲の視線も眼中に無いようで、一直線に和輝の元へ進むとその胸倉を殴るように掴み上げた。
 乱闘か、と嫌な予感に傍に駆け寄るが、皐月の腕はそれ以上動こうとしなかった。
 和輝はされるがままだ。怒りに顔面を紅潮させた皐月が、ゆっくりと口を開いた。


「和輝……!」


 胸倉を掴んだ皐月の手が震えている。それは怒りに身を任せての行動と呼ぶよりも、まるで子どもが親に縋り付くようだった。


「また、俺を置いて行くのか……?」


 皆には意味が解らなかっただろう。けれど、和輝に縋り付く皐月の姿に戦慄する。
 神様。置いて行く。暗示。この二人の関係性は――異常だ。
 興奮し気が動転しているのだろう。最早、和輝しか見えていないらしい。和輝は宥めるような穏やかな動作で皐月の両肩を掴み、何かを噛み締めるように、間違うことの無いようにはっきりと言った。


「置いて行くつもりも、切り捨てるつもりも端からねーよ。お前を其処から連れ出す為に、――迎えに来たんだ」


 この会言葉の意味が、解るだろうか。
 返す言葉を失った皐月が沈黙する。
 皐月の暴走を追って来た設楽が慌ててその肩を掴んだ。けれど、既に勢いを失った皐月は呆然と、引き摺られるように静かだった。離れて行く皐月の視線は一点を見据えている。和輝は言った。


「もう二度と、お前を置いて行かない。だから――、」


 続けられる言葉は掠れるようにして消えた。
 騒ぎを聞き付けた武蔵商業の監督が駆けて来る。慌ただしく対応するのは名ばかり顧問の轟で、一時中断扱いとなった試合を横目に、崩れるようにして和輝がベンチに座り込んだ。大きく吐き出された溜息。傍目にも疲労が感じられる。


「和輝」


 試合は中断されるかも知れない。箕輪がそんなことを言った。
 それにも意識を向けない和輝が何を考えているのか解らない。解らないことが、一番恐ろしいと知っている。声を掛けても反応を見せない和輝は目を伏せたまま疲労感を滲ませている。


「なあ、和輝。お前と皐月のこと、話せ」


 漸く顔を上げた和輝が、皮肉っぽく笑った。


「お前等には解んねーよ、きっと」
「それでもいい」


 全部、話せ。
 和輝がゆっくりと口を開いた。

2013.1.6