25、光と闇


 帝国は窮地に立たされていた。レナードを失い、ソラは殺し損ね離脱し、セレスは死んだ。勢いを増す革命軍に希望を見出し、各地から不満が爆発した。今のうちにどうにかしなければ、取り返しの着かない事になる。
 帝国の騎士の一人であるカルファー=レイドリックは、そんな頭の痛い問題を抱えながら王宮の廊下を歩いている。大きな窓からは白い光が差し込み、その静けさは外の戦乱など嘘のようだった。
 外では大勢の人間が毎日死んでいるのに、この王宮は常に静寂を崩さない。その中に収まっている主は何を考えているのか分からず、カルファーも自然と溜息を零した。

 この状況を作り上げてしまったのは、間違い無くソラ=アテナと言うたった一人の少年だ。
 サヤを殺す事によって王は望みを叶え、それを邪魔するだろうソラをレナードが殺す。そのシナリオを、ソラはレナードを殺す事によって書き換えてしまった。一人の少年の行為だけで世界がこんなにも動くと誰が考えられただろう。今でこそ言えるが、帝国はソラを侮り過ぎた。

 一番の問題は、ソラが革命軍にいると言う事だ。鬼のような強さを持って帝国に弓を引く。それがせめて、子供らしく怯えて逃げ回っていただけならばこんな事にはならなかったのに。
 この状況をどうにかするには、やはりソラが問題だろう。どうにか革命軍から再び帝国に戻せたら万事解決なのだけども、ソラも馬鹿ではないし、まさか自分を殺そうとしている帝国に帰って来る訳が無い。だから、頭が痛いのだ。
 セレスも失い帝国は力を削がれている。そう、セレスは死んだ。

 レナードの恋人で、彼を心から愛していた。ソラが裏切りレナードを殺したと告げると可笑しいくらい簡単に狂い、ソラを憎んでそれまで以上に働いてくれた。
 そう言えば、そのセレスの死体はどうなったのだろうか。革命軍がわざわざ敵を埋めるかどうか思ったが、そういう連中だ。綺麗事好きで、理想を声高々に叫ぶ愚か者の集まり。カルファーにとって最も嫌いな部類の人間達だった。

 もしも、そのセレスの死体を埋葬したのが革命軍なら、其処にはソラも関わっているだろう。戦場では鬼のようだと言われているが、まだ二十歳にも満たない少年だ。鬼になりきれる訳も無いし、其処に情があるのなら付け込むべきだ。
 カルファーは口角を上げ、ニヤリと笑った。



 昼下がりの午後、昨日の戦いによる被害者の埋葬はまだ続いていた。革命軍は動ける人間は全て駆り出され、砂漠に埋もれてしまう前に敵も味方も関係無く運んでいる。
 イオは杖を突きながらではとてもその重労働に参加出来ないが、休んでいればいいのに皆と同じように砂漠に出て手伝っている。多くの仲間を失った革命軍だが、その直向さに励まされていた。
 そして、ソラは本陣から少し離れた岩山の傍にいる。セレスの墓場だ。墓石をぼんやりと隻眼の硝子玉をした瞳で見つめている。岩場はその奇妙な作りに風穴が多く出来ているので、通り抜ける乾いた風は鳴くように淋しげな音を発する。
 まるで無防備――。その背後で、ナイフを構える人影がある。獣のように気配を消し、砂を蹴り一気に突き進んだ。風の妙な音、寸前まで目の前にあった体はナイフが刺さる直前で翻る。
 隻眼の瞳が、ナイフを持つ少女を見た。

「しつこいな」

 ソラはシルフィを見て、溜息を吐く。
 数日前に会ったばかりで名前は知らないし、顔も曖昧だった。ただ、その冴えるような青い髪だけが印象的で、黒い瞳には覗き込む自分の姿がよく映る。

「お前に命を狙われる覚えは無いんだが」
「うるさい!」

 シルフィがソラを睨む。幼い顔立ち、小さな背。サヤよりも若いんじゃないだろうかと、ぼんやりソラは考えていた。

「あの女はどうした?」

 思い出したようにソラは訊いた。
 会った時の記憶は酷く曖昧だが、確か、この少女と共に黒髪黒目の女性がいた筈だった。シルフィは俯き、黙り込んだ。そして、顔を上げると涙が一杯に溜まっているのが見えた。

「アンタのせいよ! アンタがアルスの弓を壊したから……」
「弓?」
「あれは、アルスにとって唯一の形見なのに……」

 ソラは、自嘲するように鼻を鳴らした。それを見て、シルフィは再び怒りを燃やす。

「この悪魔! アンタなんかいなければ――」
「本当にそう思うよ」

 シルフィに横顔を向け、セレスの墓を見る。一昨日まで憎悪に支配されながらでも生きていた命は目の前で失われている。彼女はもう二度と微笑む事は無い。

「生まれた事を、ずっと後悔してる」
「――死にたいの?」
「さぁ……。でも、まだ死ねない。悪いな」

 ソラは背中を向け歩き出した。その後ろを、シルフィは追う事が出来ないでいる。



 ソラが本陣に戻ると、殆どの革命軍も埋葬を終えて戻っていた。やはり、皆表情は重く空気は静かに肌を刺すようだった。その中を通り過ぎてサヤのいる筈のテントを覗き込むが、誰もいない。
 何処に行ったのかとぼんやり周りを見回すと、松葉杖を突くイオと目が合った。

「ソラ……、怪我は?」
「俺は怪我なんかしてない」

 硝子玉にイオが映っている。少し、疲れた顔をしていた。それを見ているのが辛くて、目を伏せて訊いた。

「お前はどうして、そんなに自暴自棄になるんだ?」
「どうしてって」

 ソラは少しだけたじろいだ。相変わらず瞳には感情が表れず、壊れてしまっている。

「だって、生きる意味が分からない」

 毎日少しずつ、ソラは壊れて行く。何かの欠片を何処かに落として、壊して、通り過ぎて行く。その切り捨てたものは決して捨てていいものでは無い。失ってはいけないものだ。なのに、それを落とし進む。
 何度拾い上げても、落とす。それには何の価値も無いのだと放り投げて、朽ちるのをただ待っている。そうして、自分の命さえもいらないものだと切り捨ててしまっている。必要なのは、サヤを守る強さと体だけ。心と命の必要性が分かっていない。だって、それじゃ人形だ。

「いらない命なんて、何処にも無いんだよ」
「何だよ、いきなり」
「もう、置いて行かないから。お前も何処にも行かなくていい。ここにいろよ」

 ソラは少しだけ首を傾げ、奇妙なものを見る目でイオを見た。その目はやはり硝子玉で、感情の失せた無機質の光沢がある。
 そのまま後は何も言わずに歩き出していた。

 声がする。遠くから、近くから呼んでいる。『殺せ』と『戦え』と叫んでいる。白い手が揺れ、その中にセレスも吸い込まれて行った。何時か、自分もその中に落ちるだろう。
 ソラはそんな事を考えていた。存在許可を出すと、同居人は常に耳元で囁くようになった。『戦え』と修羅が囁く。でも、ここには戦う相手もいない。すると、修羅は少し離れたところにある岩山を指差した。茶褐色の岩肌、その頂上付近に誰かがいる。
 白いマントを風にはためかせ、まるで呼ぶように。
 何時か何処かで見たような顔だった。誰だろうとぼんやり考えるが、そのマントの下を見て動きを止める。――帝国の騎士だ。

 呼んでいる。



 息を切らせながら歩を進めるイオは、何の気無しに振り返った。ソラがいるだろうと思ったが、その背中は物凄い勢いで疾走して小さくなって行く。何処かに行くのだろうか、急ぎとは珍しいな。
 暢気な事を思いながら、また進む。ソラは本陣を飛び出していた。

 頭の中で響く声は異口同音に叫び続けている。その物騒な命令を聞きながら、どうして声は嗄れないんだろうと見当違いのところでぼんやり考えていた。
 戦え、殺せと亡者の群れは訴える。喉を裂く悲鳴を見つめる隻眼の今の自分。その間には怪我を負ったままの幼い自分が蹲って泣いていて、今の自分の隣には修羅が立っている。こんな非現実的な話を誰が信じる。信じてくれる訳が無いから話さない。これは夢なのか、妄想か、幻覚か。それでも生々しいリアル感は其処からの脱出を許してはくれない。
 亡者の命令に逆らう自分がいる。修羅は常に隣りで甘美に誘う。
 一体、何なんだ。誰なんだ、お前等は。何時から俺の中にいる。

 砂漠を疾走して顔を上げると、天に向かって伸びる岩山の上にはためく白いマントが見えた。白と言う事は護衛隊だろうか。だって、その色で戦ったら汚れが目立つ。
 酷く急な斜面、突出した岩に足を掛けて一気に体重を動かした。頬に感じる風は暖かく、乾いている。
 騎士の姿を見た辺りは拓けていて、柄を掴んで周囲に目を遣るがそれらしい姿は無い。飢えの余りに幻覚を見たのだろうかと剣から手を離し掛けた時、岩の影から白装束の男は現れた。
 糸のように細い目を吊り上げた若い男だった。見覚えが有る気がしたが、正確ではない。男は口で弧を描き、笑った。

「やあ、ソラ」

 ソラは答えない。

「忘れた? 俺はカルファー=レイドリック。何回か会った事があるんだけどな」

 何が楽しいのか、口は常に弧を描く。嫌な笑いだと思っていると、何かを思い出すように手を叩いた。

「ああ、あの頃はレナードがいたからな」

 チクリと心臓を針が突付いた気がした。ソラは腰を沈めて戦闘態勢に入ろうとするが、カルファーは「待て」と右掌を向けて軽く制す。そのまま左手で何か荷物を探り、目的のものを見つけてソラに投げ付けた。
 反射的にソラは受け取った。白い布に包まれた何か、硬質なもの。

「いいものをやるよ」

 カルファーが嫌な笑いを浮かべるので悪い予感がしていたが、ゆっくりと警戒しつつ開くと懐かしいものが出ていた。その姿にソラは言葉を失い、硬質な物体の緩やかなカーブを指でなぞる。
 眼鏡だ。覚えの有る銀縁、僅かに血痕があり、レンズは罅が入っている。忘れる訳が無い。リューヒィの眼鏡だった。

「どう、して」

 眼鏡を持つソラの手は震えていた。二度と見る事が無いと思っていた親友の遺品を、どうしてこんな男が所持し、持って来る。

「お前が持っていた方がいいだろ?」

 その時ばかりは、カルファーがとてつもない善人に見えた。ソラは大切そうに眼鏡を再び白い布に包んで右手にしっかりと握る。リューヒィの笑顔を思い出して涙が出そうだと思った。
 そんなソラを、カルファーは笑いながら見ている。頭の中で描いていた未来にピタリと重なる隻眼の少年。やはり、予想通り。

「実は他にもあるんだ」

 そう言うと、ソラはカルファーを驚愕によって作られた丸い目で見つめた。硬質な光沢を持つ硝子玉に、ちらりと色が混ざった。

「お前がそれを突き返して来るかも知れなかったから今は無い。明後日のこの時間にまたここに来い」
「どうして、お前がそんな事する」
「善意に理由なんかねェよ――」

 と、吐き出した後でカルファーは停止した。こんな鳥肌ものの言葉を、信じられるだろうか。

「有るべき場所に帰したいだけだ」

 そう付け加え、背中を向けた。最後に見たソラの目はやはり驚愕が映り込んだ硝子玉。カルファーが密かに舌を出していた事など、ソラは知らない。
 残されたソラはリューヒィの遺品を落とさないよう、壊さないように握り締めて本部へと戻って行った。



 日が消え、夜が顔を出す。満天の星空で月は銀色の光を砂漠に注ぎながら笑っているような気がした。低レベルな考えにソラは苦笑する。
 リューヒィの眼鏡を布に包んだまま、策に腰掛けて一人砂漠と向かい合って酒を啜っている。無色透明な液体は決して美味いとは思えないけども何となく呑みたい気分だった。気分が高揚する傍らで疼くような頭痛を感じる。

(お前は、最後に何て言ったんだ)

 答えが返って来る筈無いと分かっていながら、もういない親友の遺品である眼鏡を見た。布の下でその骨格は僅かに現れ、ソラは静かにそれを撫でる。
 今の自分をリューヒィが見たら、笑うだろうか。それとも、怒る? 泣く?
 流され続けてここまで来てしまった。自分で決めないから何時までも地獄から抜け出せないのだと、嘗てセルドに言われたのに。でも、決められない。だって、どうすればいいか分からない。選択する事で大切なものが失われるなら、選択肢など始めから無くていい。

 黙って酒を呑んでいると隣りで軋む音がした。リーフが座っている。鈍った神経のせいで気配に気付けなかった。

「星の綺麗な夜だなぁ」

 暢気に笑いながらリーフは言った。鈍った頭はそんな簡単な言葉の理解にも時間を必要とし、また、気配を捕まえられない。
 リーフとは反対側の策が軋み、其処を乗り越えてイオはソラの正面、砂の上に座った。傷はもう癒えたらしい。そのイオが乗り越えた場所にはサヤが座り、ソラを見て微笑む。硝子玉に色が戻っているのは、酔っているせいだろうか。
 三人に囲まれた状況に、鈍った神経が微かに抵抗する。――近付けば、傷付ける。

「酒呑むなら誘えよな」

 自分のコップをソラの方にぶつけ、笑った。

「イオと呑むと大体呑み比べになっちゃうから嫌なんだよ」
「何ィ?」
「柄が悪いなぁ。もう酔ってんのか?」

 リーフが笑うと、不て腐れたようなイオがぐいと酒を呑み干した。そして、傍に置いてあった酒瓶からまた、透明な液体を注ぎ込む。それを見て、ソラも思い出したように酒を啜った。
 イオはコップを砂の上に置いた。

「なあ、ソラ。頼みがあるんだが」
「何?」
「明日一日、ここを任せてもいいか?」

 ソラがその理由を訊くよりも早く、リーフが「何故」と言った。

「支部を見て来なくちゃならないんだ」

 数秒の沈黙が流れ、少し遅れてソラはその意味を知った。前面戦争が、始まる。これまでの戦いも激しかったけれど、本当に戦争が始まってしまったらきっとこうして酒を呑んでいる事も出来ないだろう。

「また、戦争か」

 リーフが疲れたように呟いた。いや、リーフだけじゃない。もう皆疲れ切ってる。それなのに、戦う。酷く滑稽だ。
 ソラは視線を手元に移し、ぼんやりとコップの中を見つめる。震える手のせいで波紋が起こり、映り込む月の姿が歪んでいた。

「この先に何が残る」

 呟いた声は掠れていて、思った以上に自嘲らしかった。遠くで砂の流れる音を聞きながらソラは本物の月に目を遣る。降り注ぐ冷えた銀色の光。

「平和な世界――って、言えたらいいのになぁ」

 イオは苦笑した。

「少なくとも今よりはずっと平和さ」

 これだけの被害を被って得るものがそれっぽっちで人は満足出来るのだろうか。ソラは静かに酒を口に運ぶ。苦味以外の味が無い。

「断言は出来ないけど、俺は平和な世界にしたい」
「お前は、帝国に復讐したかったんじゃないのか」

 ポツリとソラが零した言葉が砂の上に転がる。サラサラと流れて、イオの元にゆっくりと辿り着いた。

「――正直、帝国は今でも憎いよ?」

 紅い瞳が揺れ、炎のように見えた。炎は揺れるだけで激しさを一向に見せず、ただ燃えている。

「でも、それじゃ世界は変えられない」
「どうして」
「憎しみじゃ世界は変えられないんだよ。例え変えられても、憎しみは全てを滅ぼすだけだ。禍根が残り、また繰り返す。憎悪の輪廻は何処かで終わらせなければならない」
「お前は、満足?」
「其処に光があるのなら」

 ああ、とソラは思った。
 イオは、レナードの目でリューヒィのように笑う。誰も聖人君子でいろなんて言ってないのに、無意識に押し付けられた理想に黙って応えるのか。
 酷く、淋しい。お前の意志は何処にある。

「俺は、『生まれなきゃ良かった』なんて思うような世界にはしたくないんだ」

 イオの紅い目が、ソラの蒼い隻眼を見た。何時になったら揃うのだろう。
 ソラはその紅い目に、自分に無いものを見た。キラキラと輝くもの、多くを惹き付けて離さない光――。其処に自分の確固たる意思があるのか。

「お前は光を追うのか」
「人は光を求めるもんだよ」
「じゃあ、俺は――」

 ソラは月を見る。太陽の光を反射するだけの鏡、偽物の光。

「お前が光を求めるなら、俺は闇に身を沈めこの手を血に染めよう」

 だって、それくらいの事しかもう出来ない。居場所が無い。どうすればいいか分からない。血塗れの両手じゃ何も掴めない。この目は光を見つけられない。
 イオは、笑った。

「そんな事、しなくていいよ」

 やっぱり、とイオは思う。
 目の前にいるのは、同世代の子供なのだ。その手で何を抱えてる。その体で何時まで、何処まで歩ける。

「お前の手は奪う為に有るんじゃない。ずっと、守って来た掌だろ?」
「違う。ずっと、奪って来た」
「なら、これからは守れるようになればいい」

 ソラは、何も言わなかった。
 紅い目には思い出がある。今でもまともに振り返る事の出来ない忌まわしい記憶は、消毒も手当てもされない傷口のように膿んでは命を削り取って行くのだろうか。
 『守れる人になろう』とは、救いの言葉だった筈なのに。どうして救いの言葉が今も心を蝕み続ける。紅い目が重なる。なのに、その笑顔は親友とそっくりで。

「何を偉そうに」

 リーフは呟き、イオの方を見て悪戯っぽく笑った。

「何だよ」

 イオは熱り立ってリーフに詰め寄る。酔っているのか、恥ずかしかったのか。リーフも同じように睨み付けるので、お互いの顔はぶつかりそうに近く、今にも火を吹きそうだった。
 サヤが少しだけ心配そうな顔をした。ソラは、大した事じゃないと思ったが手は早めに打つものだと考える。そして、イオの手を後ろに引いて傾いたところで足を引っ掻けて砂の上に背中から落とした。目を白黒させるイオを見て、リーフが立ち上がる。いや、立ち上がろうと宙ぶらりんだった足を砂に下ろそうとしたところで足払いを掛ける。リーフはイオの隣りに転んだ。
 夜色に染まった砂が舞い、一瞬の出来事に転がっている二人は瞬きをした。ソラはもう、背を向けている。

「何だ、何が起きた?」

 何が起こったのか分かっていない辺り、イオはやはり酔っているらしかった。ソラは少しだけ振り返り、笑う。

「お前剣だけじゃねーのかよ!」

 負け惜しみのような言葉を聞いてソラはそちらに向き直る。硝子玉のような無機質な瞳に、何か柔らかい光が宿っているように見えたのは気のせいだろうか。

「ばーか。剣が無けりゃ戦えないようなヤツが最強と呼ばれると思うか?」

 そう言って、背中を向ける。イオのよく分からない暴言が背中を追って来るが、砂漠の乾いた風に消えた。
 少し先のテントの影で、修羅の姿を見た。通り過ぎる横顔をじっと見つめ、すっと背中を追って来る。そして、重なるようにして中に溶け込んだ。