――DIAMOND postscript――

 恐らく一年以上の連載でしたが、ここに完結出来た事を今まで読んで下さった皆さんに感謝申し上げます。
 内容は兎に角『暗い』、『重い』、『痛い』、『辛い』とシリアス目指して色々迷いながら書いていましたが、書き終えて満足しています。流血等の表現も多々ありましたが、私の腕では陳腐なもので注意書きは果して本当に必要なのかちょっと未だに疑問に思う程ですね。(笑)

 私がこの『DIAMOND』を書き始めたのは「ファンタジーを書こう!」と思っての事でした。でも、先ず思い付く『ドラゴン』や『魔法』等の異世界は設定が細かくなってしまい、読んでいる側も書いている私も混乱してしまいそうなので全て取っ払うとこんな戦争の重々しい話になってしまいました。
 小説の中では度々登場人物達に『死』と言うものが正面からぶつかって行きます。そうして迷ったり狂ったり、泣いたり怒ったりして受け止めるのですが、このDIAMONDでは実は誰一人乗り越えてなんかいません。
 死者は永遠に死者であり、奪われた命は二度と帰って来ない。事実を受け止めると言う事が果して本当に『乗り越える』と言う事なのか、私は疑問に思っています。だから、彼等はその死の前に立ち尽くして、膝を着いたり泣き喚いたりしているのです。大き過ぎるその生と死の隔て、大きな黒い壁の前で同じ苦しみを分かち合える仲間で手を取り合っています。乗り越えると言うのは、死ぬと言う事です。
 越えては行けない一線の前で踏ん張っています。

 この話を読んで暗い気分になってしまったかも知れません。でも、最後に微笑む事が出来たなら幸せです。
 今、生きている自分を大切にして下さい。自分の命さえ自由に出来ないでいたソラが最後には笑えたように、苦しい向かい風の中でも歩いて下さい。

 ここまで読んで下さった方々に、もう一度深く感謝致します。
 どうもありがとうございました。

2007,12,16 御陵佳代


――Character――

ソラ=アテナ

 主人公の少年ですが、書こうと思って色々纏めていた初期は女の子でした。内容を考えるに当たって、女の子ではちょっと生々しいと言うか、重過ぎる話だったので少年にしました。
 DIAMONDでは一番辛くて悲しくて、最も病んでいた人です。精神的な弱さを誰にも見せまいとしているその脆さ故の優しさが仇となって自分自身苦しんでいたのですが、それを分かってくれる仲間がいてくれた事。それが彼にとっては最も大きな幸運だったのかも知れません。

 幸せなんて知らない。見た事も無い。でも、ここにあるものがそうならば誰にも奪わせたりしない。
 今度こそ、守れるように。


 *名前の由来*
 ソラは言うまでも無く私達の上にある『空』の事です。彼の瞳がくすんだ青、つまり蒼をしていた理由もここにあります。宝石のように透き通っている訳でも無ければ、泥沼のように淀んでいる訳でも無い。つまり、中途半端だったんです。だけど、そんな色をしたこの大空が私達を魅了するのは何故でしょうか。輝いている訳でもないこの蒼を、人は時に透き通っていると表現し、手を伸ばせば届きそうだと言います。その壮大な名前を背負ったこのソラにも、そんな『何か』を感じていただけたなら幸いです。
 アテナは小説で触れましたが、ギリシア神界最大の女神の名前です。大神ゼウスの頭から生まれ、学問・技芸・知恵・戦争を司っていると言われています。
 ソラの生まれについては『北方の少数民族』と書きましたが、それがアテナ一族ですね。純血の瞳は蒼く、其処から派生した混血は宝石のような青をしているとしました。中で説明出来なかったのですが、実は純血の瞳がくすんでいる訳ではなく、彼等だけは透明にも似た輝きを成長する過程で手にする事が出来る訳です。
 希少価値の為に虐殺されたとしましたが、そのダイヤモンドのような輝きに魅了された人々が羨み滅ぼしてしまったのです。こんなところで説明するなんて申し訳無いです;



サヤ=レィス=ルーサー

 お姫様です。ソラが何に代えても守りたかったたった一人の少女。
 大地の姫君なんて奇妙な宿命を背負って籠の中でひたすら生かされて来ました。多くを諦め絶望していた中でソラと出会い、生きると言う事の苦しさや難しさ、その意味を考えるようになります。
 自分の命を捨てれば訪れる平和だと知りながらも、一人の少女として自分に出来るものを探した芯の強い女の子でした。読み直して見てソラとの会話が意外と少なくなってしまったのが残念です。

 人生ってさ、そういうものなんじゃない?
 迷って傷付いて失敗して後悔して、行き詰まって何もかも嫌になって逃げ出したくなるけど、顔上げて少しでも前に進もうとする。
 あなたはずっとそこで蹲ってるの?
 強くなんてならなくていいよ。誰かの為なんかに生きなくていいんだよ。だから、逃げないで

 *名前の由来*
 ミドルネームがあるのは、やっぱりその方が王女らしいなんて考えただけで殆ど意味はありません。由来と言っても後半部は完全に思い付きの適当なものですが、『サヤ』と言うのは剣や刀を収める『鞘』から来ています。彼女はある意味ソラと言う鋭過ぎる刃を収める事の出来る唯一の鞘だった訳です。



イオ=フレイマー

 捻くれたソラに比べると真っ直ぐ過ぎる程に純粋な革命軍のリーダー。
 人間味に溢れ、冷静なふりをしていて意外と熱血で義理堅い人情家。前を見詰めて皆を率いて行ける強さを持っていました。
 滅ぼされた故郷の復讐は、ソラに出会った事で戦いを無くし自由を手にする為の革命へとなって行きます。何処か歪んだ内面は実は呆れる程真っ直ぐで、置いて行けばいいものを当たり前に、平気な顔して取りに戻って行く。イオがいなければソラは最後にあの結末を迎える事は出来なかったと断言します。
 狂気の中に落ちたソラに手を伸ばし、何度も何度も間に合わず取り零しても最後まで手を伸ばし続けてくれたところにイオの優しさがあります。

 ……生まれた意味なんか、死んだって分かんねェよ。でもな、命は皆生きる為に生まれたと俺は信じたいね

 *名前の由来*
 イオは火星の衛星です。彼は炎のイメージなので其処から取ったのですが、よくよく調べてみたら神話に登場してました。ゼウスに愛され、嫉妬したヘラによって白い牡羊に変えられた少女だそうです。少女……。(笑)
 フレイマーは炎を意味する『Flame』から来ています。やはり、彼は燃え盛る紅蓮の炎。



リーフ=ソフィア

 父親を殺した罪を背負う若き神父。
 優しく冷静でソラやイオ達を兄のように見守る少年です。若さ故の無謀さなんてものとは遠く掛け離れていますが、時には大声で叫ぶ事もありました。革命軍に属する前は宗教戦争でナイチンゲールのように身を投じていましたが、そこでも多くの不条理を学んでいます。
 十字架を背負うと言うのは、罪を背負うと言う事です。これも過去と向き合おうとした彼なりの生き方。
 間違いだと分かっていても選ばなければならない選択肢。世界への諦観は罪悪感から起こる哀しみです。ソラが十字架を斬った後も背負い続けたのは、彼なりの覚悟の証でした。

 でもね、憎しみは永く続かないんだよ

 *名前の由来*
 リーフと言うのは葉っぱを意味する『Leaf』、そのままです。大勢の中の一枚でしかない名前を背負うのは、父親なりに『普通』と言う最も幸せな生き方を望んだと言う感じです。作中で書ける程、彼の過去には深く触れられませんでしたが。
 ソフィアはギリシャ語で知恵を意味する『Sophia』からです。人生を悟っている事が彼の哀しみの一つなのですが、それもこの賢さから来ているのかも知れません。



アルス=アルテミス

 ソラへの復讐を誓う弓の名手である若い女性。
 ソラを憎む事で多くの不条理を跳ね除け生きたのですが、憎悪を向けていた対象であるソラの弱さや優しさを知り、最後は彼を生かそうとします。
 サヤとの対話によって全ての真相を知りますが、簡単に受け止められるものではありません。でも、それが出来たのは心の何処かで理解していたからです。間違いだと知っていても止める事の出来ない窮屈な不条理は彼女にも襲い掛かります。
 シルフィが懐くように根は優しい人でした。

 お前のその手が幾つの命や希望を奪ったんだ!

 *名前の由来*
 アルスは特に意味はありません。考えた当時に『ドラゴンクエスト』にはまっていまして、勇者の名前をソフトに任すとこの名前になる訳です。つまり、適当。(汗)
 アルテミスはギリシア神話の神。弓の名手だと言われた女神です。



シルフィ

 この子については結構行き当たりばったりでした。ナイフの使い手で昔は盗賊、捕まって海に捨てられたところをアルスに助けられました。
 サヤが大人しく控えめなお姫様だったので、その対照的な活発な存在として書きました。
 アルスが憎むソラを同じように憎んでいましたが、彼女が変わるに従ってシルフィも変わっていきます。ソラに対して向けていた感情も憎悪から恋に近いものになろうとしていましたが、その前に時代は動いてしまいました。まあ、ソラがサヤの事を好きだったのは誰もが知っていたので失恋したのでしょうが。
 もしも話が続いていたらシルフィはむしろイオかリーフとくっ付いていたかも知れませんね。

 それでも、信じたかったの?

 *名前の由来*
 深い考えは無かったんですが、絹、つまりシルクから来ています。あの滑らかな布の感じが彼女の心の美しさと重なっています。



エルス=ターナー

  革命軍の女医師。
  唯一イオ達の傍にいて生き残った大人と言える彼女は、大人が犯し、背負うべき罪を子供達が背負っている様に哀しみます。
  戦争の中で医者はとても忙しく、神父であるリーフさえも駆り出されているのですから彼女は相当働いた事でしょう。その手は多くの命を救った反面で、多くの命を救えなかった。その中でも絶望せずに救い続けたのは大人故の強さでは括り切れません。

 この時代はもう終わらせなければならない。こんなに辛い道を子供に歩ませてはならない。

 *名前の由来*
 ありません……。彼女は完全に適当です……。すいません。



メロウ=ワーカー

 帝国軍の騎士。
 ソラの友人で、彼が裏切った事に対して絶望しています。やはり、メロウも兄みたいなものです。
 騎士と言う事は凄まじく腕が立つ訳ですが、特筆すべきはその頭脳。策士でどんな逆境も覆す一手をいとも簡単に思い付きます。西の砦に僅かな人数で持ち応えたのもそれ故ですが、その頭の良さを書き切れなかったのが残念です。と言うか、書けなかったんですけどね。
 帝国騎士でしたが、革命軍へと寝返りました。帝国思想が宗教のように根強いのにどうして彼がそんな選択を下す事が出来たのかと言うと、彼の家がそれほど熱心な家ではなかったからです。帝国思想は貴族などを中心に起こっていたものなので、彼の家は実は結構貧乏……。

 
約束した筈だ。誰がお前を死なすかよ

 *名前の由来*
 メロウは英語の『Mellow』と言う事で、柔らかいとか円熟したとかです。結構掛け離れていますが、これは彼の両親が希望を込めて付けた……と言う事で。
 ワーカーは働くと言う『Work』から来ています。要するに、働き者。



ケルマ=マナエルとローズ=マナエル

 帝国の双子の騎士。
 二人は予想外の登場です。DIAMONDは元々登場人物の少ない話にしようと思っていたので、初期考えていたのはソラ、サヤ、イオ、アルス。後はレナードやリューヒィ、セレスやセルドくらいのものでした。
 でも、二人はソラが北に関所を抜ける為には不可欠な存在でした。ソラにとって帝国にいた頃は簡単に振り返る事の出来ない暗い思い出ばかりだったので、その中でメロウやこの二人のような存在が実はいたという事は驚きであり、涙が出る程の感動だった筈です。
 忌み嫌われた一族と言う設定は、ソラが世界最強の名を背負ったところで生きて来ます。強過ぎる戦闘民族ですが、彼等が生きる為にはやはり強くなければなりませんでした。なら、名誉であるその称号を背負えば救いになるのではないかと思った訳です。恐らく、レナードが世界最強だった頃も何度と無く挑みその度に敗北を喫していたでしょう。
 ちなみに、ケルマが兄でローズが妹です。

 もっと、自分の為に生きて下さいよ。アンタばっかりがそうして苦しい事背負って、仲間は皆幸せになれんスか?
 幸せですか?


 *名前の由来*
 思い付きなので由来はありません……。



 セルド

 ソラの育ての親であり、剣を教えてくれた人。
 乱暴な言葉遣いの割には優しい人でした。彼について多くを書く事は出来ませんでしたが、ちょっと変わり者だったので町や村からは少し離れたところで自由気ままに生きていたようです。ソラを助けたのは気紛れでしたが、後に死んでしまった時もそれを後悔する事はなかったでしょう。
 彼の登場した話は、私自身すごく好きな話だし、好きなキャラクターです。セルドの言葉一つ一つは今もソラの中に生き続けています。

 哀しみや不幸なんて数えればきりがねぇよ。だから、お前はそういったもんには目をくれるな。ただ、出会った喜びや温もりを大切にしろ



 レナード=ルサファ

 DIAMONDではかなり重要な人物、世界最強の名を持つ騎士です。
 優しくてしっかりした大人なのですが、頭が堅く、結局はそれが仇になります。犠牲と言う言葉を簡単に受け入れた冷淡な男のようですが、実はそれに抗おうとしていました。作中でも書きましたが、レナードはソラよりも強い存在です。だけど、詰めの甘さと言うか中途半端な優しさが彼を殺してしまう事になりました。

 優しい人が騎士になるべきなんだよ。力があるだけの人間なんてただの破壊者だ



リューヒィ=ヴァイサー

 ソラの今は亡き親友。
 眼鏡の科学者ですが、ソラ達を救う為に走ってレナードによって斬られてしまいます。彼の純粋さに当時のソラは救われ、世界を諦めずに歩き出す事が出来ました。
 リューヒィを失ったソラは絶望のどん底に落ちてしまいますが、それだけ彼の存在が大きかったと言う事です。
 最後に笑って『頑張れ』と言ったリューヒィは相当に強い心を持っていた筈です。呪いの言葉一つ吐かず、これから死ぬよりも辛い道を行かなければならない親友に向けて言った彼はやはり、とても優しかったのです。

 縋り付いて何が悪い! 泣き叫んで何が悪い! 言えよ、恐いと! 助けてくれと!
 生きたいと言えッ!!




セレス=スカーレット

 レナードの恋人ですが、余り書けなくて残念です。
 芯の強い美しい女性だったのですが、その芯が失われた事によってソラと同じく狂気の中に落ちてしまいます。そうして、最後にソラに負けて斬られてしまった時に微笑んだのは皮肉ではなく、謝罪の意味でした。
 守るべき存在を守れずに殺そうとしてしまった哀しみの中で彼女は死にました。でも、帝国に捕らわれたソラの心の中に現れたのはやはり、彼が都合良く作り出した幻覚なんかじゃなくて本人達の魂だったように思います。最後の最後で彼女は自分の行いを正す事が出来たのでしょう。

 あなたは自分のした事を忘れちゃいけないんだよ!?



シロヤ

 革命軍の一人。
 狂気に落ちたセレスによって殺されてしまった若き命。彼が革命軍に参加したのは若さ故に起こる正義感でしょう。でも、それは決して間違った事ではありません。
 革命軍の中で浮き上がった異質な存在のソラを早々と認めてくれたのも彼でした。

 助けてくれてありがとう。俺はお前を少し誤解してたな



ソウジュ

 革命軍の幹部の一人。
 少ない大人であり、目の前で簡単に危険に命を晒すイオ達を悲しそうに見詰めていた一人です。DIAMONDの中では大人と言う役割を果せた一握りの人間でしょう。
 燃え盛る烈火のような、草原を駆け抜ける一陣の風のような存在にイオは大変救われた筈です。

 じゃあ、俺達大人はこいつに何を教えてやるんだよ!



カルファー=レイドリック

 帝国軍の騎士。
 帝国思想を持つ貴族の家に生まれ、当たり前に騎士になった男。歪んだその心は実は、レナードに向けた羨望から来るものです。ソラに向けた数々の残虐な行為は、レナードを奪った彼に対する仕打ちだったのかも知れません。
 いつか番外編で彼の話を書きたいと思っています。

 忘れるな、お前はこの戦争を起こした人間なんだ。俺と同じ穴の狢なんだよ





 DIAMONDでは最恐、最悪の敵です。
 サヤの父で最後はソラによって殺されていますが、もう、多くは語るまい……。

 お前が守ろうとするものを全て壊してやりたくなるのだ。必死に抱え込んでいる全てのものを――