*黒と白 1


 学校にあるようなスチール製の灰色の業務机の上に、それより幾らか薄い色をした風邪薬のような錠剤が無造作に数粒転がっている。部屋の中は薄暗く、強盗が何かが入って荒らしていった後のように物が散らかり、窓硝子が割れて奇妙な山脈の形を描いていた。
 男が一人、机に突っ伏している。眠っているようだが、背中の上下運動が異常に早く息が荒い。ガバッと起き上がった顔は青褪め、前髪は逆立ち、眼鏡をしたままだったので跡が残っている。固い机は寝心地が悪い筈だが、もう一日以上眠っていた。漸く椅子を立つ。主を無くした椅子が寂しげにキィと鳴いた。
 割れた窓の外で鉛色の雲が空を覆い尽くして町を暗くしている。低い団地の群れ、中には巨大なマンションに並ぶ団地もあり、比較的新しいようだ。ビルは殆ど無い。一戸建ても数える程しかない。坂道だらけの田舎をぼんやりと見つめ、男は机の上の錠剤を引っ掴んだ。赤い掌に三つ。それを一気に口の中へ放り込む。舌で転がして奥歯へと進め、噛み砕いた。ゴリゴリとした音が頬を突き抜けて部屋に響く。全てを飲み下し、また、椅子に体を預けた。
 ドクン。頭が絞め付けられるような鼓動が強くなる。酷い吐き気と眩暈。指先が痙攣し、意識を失いそうになった。が、次の瞬間にパンッと風船の割れるような音が頭の中で響いた。途端に足元が浮び上がるような、夢の中を歩く感覚。何処からか甘い匂いが漂い、目を閉じてそれに全てを委ねた。
 真っ暗な闇、その端で何かがキラキラとちらつく。目障りだ。手をばたつかせて振り払うが、消えない。その輝きは暫く消えず、そこに在り続けた。
 耳の奥で声が、音楽が聞こえる。懐かしいような愛しい感覚。その感覚に酔った。
 男がそれに酔っている間に外では雨が降り始めている。少し出て来た風が雫と共に中へ吹き込んだ。窓格子がガタガタと音を立て、何かの書類が風に舞う。
 それから数分、僅か数分で男は現実世界に戻った。パッと開いた目には汚れた節目だらけの天井が映る。
 大きく溜息を溜息を吐き、背凭れにズシリと体重を預けた。途端に酷い頭痛。頭の中から金槌で叩かれているのかと思うような衝撃と、吐き気を催す眩暈。絶え切れずに固く冷えた床に倒れ、周りの物を壁に投げ付けた。それで和らぐ訳も無い。八つ当たりだ。投げた時計が音を立てて割れた。
 この行為を何年も前から何度も繰り返している。僅かな幻想を見る為にこの灰色の薬に手を出し、その後の地獄を堪える。何の結果も生み出さないと解っていても止められない。悪循環に嵌ってしまった。あの薬は蟻地獄のように獲物を掴んで離さない。
 噛み締めた唇は変色して赤黒い血液を流す。顔から血色は消え去り、体全体が極寒の地であるように震え、歯の根が合わずにカチカチと音を立てた。
 死にたい。不意にそう思い、手首を見た。既に幾つも傷がある。
 駄目だ。もう少し、もう少し。そう心に言い聞かせた。いつもそうしてこの地獄の痛みに堪える。そうして、天井に向かって手を伸ばした。何も、掴む事は無いけれど。




 蝉の声ばかりだった町の中、車のクラクションが空気を裂くように鳴った。掌を団扇のようにして扇いでいた黒薙灯はそれに一瞥を投げ、面倒臭そうに歩を速める。着慣れた黒いスーツがその度に衣擦れの音を立てた。
 人通りの無い車道の端を背筋を真っ直ぐに歩く姿はやり手の営業マンと言った風だが、そんな生温いものではない。横を通り過ぎて行く白いセダンの運転手が顔を強張らせ、目を合わせないように曲がり角に消える。顔は僅かに青褪めていたようだ。
 日差しが強く、スーツが日光を受けて熱を帯びていた。黒い短髪の下、頭皮から汗が滲み出ては頬を伝い、顎から落ちる。浅黒い肌が火照り、手の甲で汗を拭った。腕にしていた銀色の時計が頬に擦れ、熱い。見上げれば午後二時の太陽が嘲笑うように黒薙を照り付けていた。上からの灼熱と、アスファルトから沸き上がる熱にうんざりしながら道を急ぐ。通り過ぎて行く閑静な街並みが少しだけ速くなった。
 今朝、若い女性アナウンサーが今日の四十度越えの気温を切り口上で伝えていた。地球の環境汚染の復讐が、年を追う事に形を成しては全ての生物を襲う。この猛暑もその一つだろう。常時徒歩を心掛けている黒薙にしてみればこれほどの拷問は無い。涼しげな顔をして通り過ぎる車が恨めしい。それらは行く度に黒薙に熱い排気ガスを掛けて行った。
 携帯が振動し、何か小さな生物のように胸の内ポケットの中で低く唸り黒薙を呼んだ。取り出してみると、小さなサブディスプレイに着信、と表示されている。汗ばんだ手で開くと、見慣れた名前が画面に出ていた。
 Callingの文字の下、『浦和悠子』と携帯は知らせた。が、黒薙は右上の電源ボタンを押す。電話は切れた。
 着信画面が消えるとディスプレイには待ち受け画面が出現する。右端で不機嫌そうな顔をした黒薙と、他、二人。左端で人の良さそうな笑顔の背の高い青年。黒薙はそんなに大きくないからより大きく見えた。そして、真ん中に女性。目を疑いたくなるような色彩をしている。雪のように透き通る肌が隣りの黒薙と対比され、病人を思わせた。さらに肩まで伸ばし、無造作に流した髪が老女のように真っ白である。細く歪められた目、瞳が青い。年々増加する子供の異常の一つだったが、どうでもいい事だ。
 その映像を見つめていると、胸に何か冷たい風が吹き込んだような虚しさを覚える。歩を止めて黒薙は暫く見入っていた。

――灯はいつも、不機嫌な顔をしてる

 彼女はこの写真を見て、そんな事を言った。怒ってはいなかった。困ったように、笑った。

――楽しくもないのに、笑えるお前等がおかしいんだ

 言い返すと、二人が顔を見合わせて一斉に顔を伏せ笑った。
 昔から、表情を作るのが苦手だった。感情の起伏が殆ど無く、泣く事も無ければ笑う事も無い。常に怒っているような仏頂面で正面を睨み付けていた。生まれた時から瞳孔が人より開いていた事もあって、皆好んで傍に寄ろうとはしなかった。笑っていれば楽なのは解っているけれど、笑えない。そういう意味でも自分は『欠陥品』と呼ばれる側の人間だと言う事も理解していた。
 欠陥品。なんて残酷な響きだろうか。二人の姿が遠ざかった気がした。
 その瞬間、その映像がプツンと消えた。再び着信、相手は同じだ。溜息を吐き、通話を押した。

「はい」
『灯!』

 思わず携帯を耳から遠ざけた。甲高い声が右耳を突き抜けて脳の中で反響する。

『何故電話に出ないの? 今何処にいるの?』
「面倒だったんです。あと十分もすれば着きます、それじゃ」

 黒薙は電話を切った。向こうが名を呼ぶ途中で切ったので「あか」と言った中途半端な声が耳に残る。今度はそのまま電源を切ってよれよれになった黒い革カバンの中に投げた。
 暑い、と言う感覚が無くなっている。汗も出ないが、黒薙は気付かずにまた歩き出した。


 予定通り、十分ほど歩いて目的地に到着した。十五階建ての巨大なビルが黒薙を見下ろすように佇んでいる。硝子張りで全体的に青く、冷たい印象をもたらした。最近建てられたばかりの、新しい警察署。詳しくは『違法薬物対策取締総本部』と言うのだが、どちらにせよ、警察だ。
 何故こんな組織が大きく出来たのか、それは単純だ。薬物と言うものが蔓延し、嘗ての警察だけでは間に合わなくなったから。海外から量も種類も沢山入って来たお陰で誰でも求め易くなった。路地裏の外人に話し掛ければ安価ですぐに買う事が出来る。それを嘆いていた政府も、年を追うごとにそれを甘受する姿勢を取り始めてしまった。それが切欠となって犯罪は増え悪質化し、辛うじて警察機関だけは生きているものの多くの機関が腐ってしまった。それが今の日本だ。
 そして、現在、最も多く出回っている違法ドラッグがある。その名は『GLAY』と言い、現在、最も危険とされている。
 出回り出したのはおよそ二年前からで、現在では中学生でも買える安さと手軽さから他のドラッグとは段違いに広まっている。口にするだけで高揚感を得られるが、同時に幻覚などの症状も齎す。中毒者を一体何人収容したか今では数える事も出来ない。
 しかし、その多くは偽物だ。出回っているものの九十九パーセント以上が偽物で、本物は中々お目に掛かれない。そのGLAYの恐ろしいところは、望むものを見せると言う酷い幻覚作用と、それ故にたった一度、一粒口にすれば二度と逃れられない重度の依存性。
 収容した偽物の中毒者は、地獄のような時間を乗り越える事で回復し、社会復帰も不可能では無い。だが、本物を口にした者を待つのは死か、地獄。その中毒者は僅かに数人収容したが例外は無く皆、自殺か廃人の道を辿った。
 そして、黒薙はこの組織のGLAY対策本部に所属する刑事で、今年で二十二を迎える。世間的にも若い方で務めて二年程の通常なら下っ端だが、其処は他とは違う曲者の巣窟。黒薙のような、浮世離れした者が多く集まっている。

『必要なのはキャリアじゃない。現場で臆せず戦えるのか。使えない者はここには必要ないわ』

 とは、本部長の浦和悠子の口癖。先程の電話の相手だ。
 エレベーターの黒っぽい鉄の扉が女のような合成音声と共に開く。それと同時に、スーツに身を包んだいかにもエリートと言う顔をした人間が溢れた。縦に薄い線の入った濃紺のスーツを着た眼鏡の男が黒薙を一瞥したが、それ以外は一秒でも惜しいと言うように何処かへ散って行った。入れ替わるように乗り込むと、それと同時に何人か乗った。
 ゴトン、と最初小さく揺れる。それから上へ上って行く。中は静かで、皆一言も話さずに携帯を開いたり、書類に目を通したりしている。黒薙は数字の大きい方へと点灯して行くランプを見つめ、自分の行き先と同じ者が誰もいない事を悟ってからボタンを押した。点灯しているボタンの中では一番大きい十三階。
 ポーン、と優しい音がして扉は開く。だが、扉自体が鳴らすのは無機質な機械の音だ。開く度に変わる景色など見慣れているし、元来せっかちな性格だった為、率先して『閉』と書かれたボタンを押した。
 数回景色が変わり、十階で相乗りだった女が下りると黒薙が一人残った。小さく溜息を吐き、生暖かい壁に背を預ける。壁は硝子張りで景色が遠くまで見えた。
 建物が海のように広がり、車がプランクトンか何かの微生物であるように蠢く。さらに遠くには開発途中の山が見られた。深緑の森が削り取られ、黄色っぽい土が露出している。また、地球の環境問題が頭を掠めた。無論、興味がある訳では無い。
 やがて、エレベーターは目的地に到着した。扉が開きます、と合成音声が告げ、黒薙は素早く下りた。背後でドアの閉まる音を聞きながら準備体操のように首を回す。関節が鳴った。
 カーペットの敷かれた廊下は足音が響かない。綺麗だが、白い蛍光灯の光が冷たさを感じさせた。黒い鉄のドアが白い壁に沈んで見える。それを幾つか通り過ぎ、一番奥の、一番大きな扉の前に立った。ドアノブが銀色に光っている。回し、押す。キィィと鳴きながらドアは開いた。
 中から一気にクーラーの冷風が黒薙に向かい、汗が一瞬にして乾いた。皆の目が一斉に侵入者に向き、刺さるような視線を感じつつ自分の席に向かう。汗ばんだ肌が冷風で少しずつ乾いて行くのが解る。
 業務用の灰色の机の上には、塔のような書類が詰まれていて息が詰まった。昨晩帰る時には無かったものだ。それ以外は変化も無い小奇麗な机。ペン立てとカレンダー、数冊の専門書が立てられている以外には何も無い。
 机の前でいつまでも座らない様子を見て、隣で行き詰まったようにペンを回していた菊崎が苦笑した。

「それ、遅刻の罰だよ」
「多過ぎる」

 菊崎は肩を竦めた。
 短髪を自然に流した好青年で、黒薙とは同い年の同僚。

「昨日から新宿で立て篭もりが続いてる。現場行かないヤツはデスクワークだよ。俺だって、出勤したら机に塔が出来てた」

 最後に「お前程じゃないけど」と付け加えて笑った。
 塔を見つめながら労働基準法の条項が幾つか過ったが、全ては無駄な事だ。この薬物対策取締総本部は日本で一番忙しい職場と言っても過言では無い。解っていた事だ。遅刻など付け足された理由に過ぎない。

(分身してぇ)

 時々そんな事を考えてしまう。
 黒薙は覚悟を決めて席に着き、上着を椅子の背に駆けてシャツの腕を捲くった。左手にボールペンを握り、一番上の書類を見つめる。二週間も前の事件の始末書だった。

「おい、これ、俺関係ねぇぞ」
「知るかよ。俺なんか半分片付けたけど、関係してるはヤツ三枚しか無かった」
「……」

 知らない事件をどう書けと言うのだろうか。ぼんやり考えていると、ついさっきまでの鉄板のような道路が思い出された。陽炎の立ち昇る中でした電話。

「――あっ」

 黒薙は席を立った。ガタンと机が鳴り、塔が陽炎のように揺れる。慌てて支えたのは隣の菊崎だったが、黒薙はそのまま携帯を片手に走り出した。


 本部長室は、黒薙達のオフィスの奥にある。滑らかな木目の描かれた扉に『本部長室』と書かれた名札が張られ、横に歪んだ取っ手が誘うように蛍光灯の光を反射した。
 ノックもせず、黒薙は扉を押し開ける。正面の大きな黒い机に、待ち構えていたかのような女性が笑顔で見つめていた。周りの景色を映す机に『浦和悠子』と書かれた名札が立てられている。
 その机の横で従うように今時風の茶髪をワックスで立てた青年、佐倉が立つ。職場最年少の二十歳で黒薙にとっては後輩に当たる。
 佐倉は黒薙が入って来た事を知ると、「灯さん」といつもは見せないような真剣な顔をして見せた。
 胸騒ぎを感じながら、黒薙も浦和の前に立った。

「遅刻よ、灯」

 浦和は嫌味な程綺麗に微笑んだが、黒薙はそっぽを向く。

「遅刻しないと労働基準法に違反するんだ」
「そうしたら、殆ど皆が違反よ」

 黒薙は額を抑えて盛大に溜息を吐いて見せた。

「で、違反させてまで呼び出した理由は何だ?」

 少し、沈黙が流れた。黒薙は横に目配せするが、佐倉も何も知らない様子で肩を竦める。何かを躊躇うように浦和は数秒黙った後で、机の引出しを引いた。
 その奥から何かを取り出し、机の上に置く。小さな袋に入った錠剤だ。佐倉は黙って納得したように頷く。これが違法ドラッグだと言われても驚かない職場だからだ。だが、黒薙は目の色を変えてそれを見つめた。

「コイツは――……」

 何かに憑かれたように黒薙は動けない。元々目付きが悪いが、それを見つめる目は異常に鋭くなっていた。

(嘘、だろ?)

 体中が粟立ち、歯の根が合わずカチカチと音を立てる。その錠剤の存在感は、特に黒薙にとっては大き過ぎた。目が逸らせずに固まっているのを見て浦和は静かにそれを掌の下に隠した。
 漸く呪縛から解けた黒薙が顔を上げ、浦和を見つめる。

「浦和さん、そいつは……」

 浦和は静かに頷き、再び黒薙の前にそれを出した。今度は目を奪われるような事は無かったが、体中鳥肌が立っている。浦和は立ち上がってその袋を黒薙の手に握らせた。

「仕事よ。N地区の地下クラブ『イエロウ』の売人からのルート」
「解った。……行くぞ、青」

 黒薙は素早く踵を返し、扉へ向かった。その後に状況をよく理解しないままの佐倉が続く。
 取っ手に手を掛けた時、浦和が一言

「気をつけて」

 と、微笑んだ。黒薙は振り返らなかったが、佐倉は軽く頭を下げ出て行った。


 本部長室を出ていつもの仕事場が視界に広がる。クーラーの風を受けて前髪が少しだけ舞った。
 二人は一旦机に戻り、それぞれの荷物を持って入口へ向かう。黒薙は待つ気など無いので佐倉は一足先に扉の前に立った。
 黒薙は塔を無視して上着とカバンを引っ掴んだ。

「灯」

 通り過ぎようとした時、机に向かったまま菊崎が手を振った。

「気を付けろよ」

 見れば、自分の塔が少し低くなっている代わりに菊崎の塔が高くなっている。

「……ああ」

 何か可笑しいものが込み上げて来て、黒薙は通り過ぎ様にその肩を叩いて扉に向かった。
 既に扉に寄り掛かって待っていた佐倉が顔を上げる。黒薙は小さく「行くぞ」と声を掛けて部屋を出た。
 廊下は仕事場に比べて生暖かい空気が広がる。その中で黒髪を流しながら黒薙は一直線にエレベーターを向かった。後を追う佐倉は怪訝そうな目を黒薙の背に向けている。

「灯さん、あれ、何なんですか」
「決まってるだろ」

 黒薙は振り返らない。

「ドラッグさ」
「それは、解ります。でも、アンタの様子はおかしかった」

 その時、エレベーターが開いた。硝子の向こうから夏の日差しが差し込み、光が溢れている。黒薙は一歩踏み出す前に振り返った。背中に日差しを受け、表情はよく見えない。佐倉が目を細める。

「GLAYだよ」

 一言、黒薙はすぐにエレベーターに乗った。後を追う佐倉はまだ、不思議そうな顔をしている。
 二人の姿は、扉の向こうに消えた。また、廊下に合成音声が響いた。





 静かで穏やかな曲が店内を占拠している。紅い絨毯、そこに設置された椅子やテーブルはシンプルだがどれも品の良さが漂っていた。
 アルコールの匂いが漂い、ライトアップされたステージにはスーツを着込んだ金髪の男が数人。客である女性達は皆一様に目を輝かせてそれを見つめている。
 その空間から離れた従業員ルームは、同じ店内とは思えない程に粗野で椅子やロッカーも学校で見かけるような灰色をした業務用のシンプルなものだ。音楽は殆ど無く、鼻を突く入り混じった香水の臭いが服にこびり付く。白神龍は青いベンチにだらしなく仰向けになって天井の無機質な光を放つ蛍光灯を見つめていた。
 ホストクラブ『While』は今日も大盛況だが、ナンバーツーを誇る白神は働かずにいる。

「リューちゃん、御指名よ」

 扉の向こうで短い金髪の青年が呼ぶ。白神はのそのそと起き上がって鏡を見つめ、髪をセットした。

「俺にまだ、御指名なんかあったとはね」
「何を言ってるの!」

 女口調の青年、桃木は眉を寄せて目を鋭くした。

「ナンバーツーに指名が無い訳無いでしょ」
「……ったく、俺の何処かいいんだか」

 白神はブツブツと文句を言いながら桃木の後を追う。すると、桃木は振り返り、両手でその顔を挟んだ。

「顔よっ」
「……」

 白神は白い目を向ける。

「何よ、その顔は」
「桃ちゃん、流石だね」

 子供っぽく笑い、白神は光の向こうに消えた。


 指定されたテーブルに向かう白神を客は侍らせたホストそっちのけで声を掛けた。それに白神は人の良さそうな微笑みを浮かべ会釈する。歩行、挨拶。行動一つ一つが精錬されたプロの動きに皆が見入る。白神は本来ならばナンバーワンに咲いてもおかしくない実力があった。それがナンバーツーに納まっているのは、仕事を仕事と思えない自堕落な性格に原因がある。
 白神は赤絨毯を歩き、テーブル席の前で恭しく挨拶した。

「御指名ありがとうございます。リューです」

 そうして、微笑む。席に着いていた女性は嬉しそうに赤い顔を歪ませて笑った。

「リューちゃん久しぶり!」
「ミカちゃん、よく来たね」

 自分の顧客であるその女性の隣りに静かに腰を下ろす。そこにも優雅さが垣間見えた。

「何か作ろうか?」

 とは訊いたものの、顔が赤いので既に呑んだ後だろう。そんな事を考えたが頷いたので、軽めのものを慣れた手付きで作り上げる。透明なグラスには淡いピンク色のカクテルが出来上がった。
 ミカはそれを見ると子供のようにはしゃぎ、嬉しそうに口を付けた。

「リューちゃんって何時来ても指名取れない」

 腕にしがみ付くミカの頭を撫でつつ、白神は微笑んだ。

「ちょっと忙しくてね」
「嘘。この前、町で男と歩いてるの見たんだからー」

 白神は苦笑した。
 見られているとは思わなかったが、さして気にする事も無い。

「リューちゃん、男に目覚めたのー?」
「まさか。俺はミカちゃん一筋だよ」

 そう言って額にキスした。そんな簡単なサービスで女性は声を上げて喜び、金を落として行く。微笑みを顔に張り付けながら心の中は酷く冷静に全てを見下ろしていた。
 ミラーボールが天井でチカチカと光を反射して輝き、上気した女性の顔が浮ぶ。穏やかな音楽の下でアルコールと香水の臭いが鼻を突く。酔うと絨毯だか椅子だか解らなくなるようなコーディネート。白神には全てがまるで何の意味も無いもののような気がしていた。

「あの男誰? 超格好良かった」
「俺の友達。片思い中だから手を出さないであげてね」

 と耳元で優しく囁いた。
 その時、席に新たなホストが現れた。嫌味に金のローレックスを腕に付けた男、店のナンバーワンを誇る宮代。

「タカ君!」

 嬉しそうにはしゃぐ女性と宮代を交互に見て、白神は微笑み席を立った。

(もう、指名変えてんじゃねぇか。ナンバーワンと二股かよ)

 殴りたい衝動を抑えつつ、再び恭しく挨拶をして素早く席を去った。宮代と相席など、吐き気がする。白神は表面では解らないような、ドロドロと濁った捻くれた内面を抱えていた。虫も殺さぬような笑顔を浮かべる割りには好き嫌いがはっきりしていて、大抵のものが好きじゃない。ただ、好きなフリが上手い。
 宮代の事は激しく嫌いだが、それを表面にはおくびにも出さない。出さないが、宮代も白神の事は好きではないだろう。サボってばかりの割りに人気があり、常に自分の地位を脅かす。所詮、ナンバーワンとナンバーツーなどこんなものだと二人とも思っていた。
 席を立った白神は微笑みを張り付け、声を掛けられる度に挨拶して苛立った内面を完璧に隠す。そのまま桃木の定位置であるカウンターに向かった。
 カウンター席には誰もいない。イベントなどでテーブル席が満席でどうしようも無い時は利用するが、そうでない時は極力使わないようになっている。其処もまた、白神の定位置だ。

「桃ちゃーん」

 笑顔を張り付けたまま、だらしなくカウンター席に着く。桃木は始めこそ呆れた顔をしていたが、すぐにいつもの水色に透き通ったカクテルを出してくれた。

「ミカちゃんはどうしたの?」
「宮代に取られましたー。アイツ、俺の客狙ってるよ。これで五人目だ」
「タカも仕方が無いわねぇ」

 桃木は溜息を吐く。実は二人の仲の悪さは店でも有名だった。

「アイツも俺の事嫌いだからって大人げないよな」
「そうねぇ。……あ、リュー」

 両手を叩いて思い出したような素振りをして、桃木は顔を赤らめた。桃木は所謂オネェ系と言うもので、体は間違い無く男だが心は女。好きになるのはもちろん、男。

「ねぇ、あなたのお友達紹介してよ」
「はあ?」
「いいじゃないっ」

 桃木は嬉しそうに頬を両手で覆って女の子らしい素振りを見せた。
 先にも言った通り、白神は好き嫌いが激しい。上辺の友人など携帯のアドレス帳に収まらない程いるが、自分で友達と呼べる人間は一人しかいない。

「アカリちゃん。あの子、あたし好みだわっ」

 数秒、白神は瞬きをしつつ動きを止めた。だが、グラスに浮んだ氷がカランと鳴ったのを合図に苦笑し、口を付ける。頭の中に浮んだ男が桃木の言うアカリちゃんなのだと理解した為だ。

「残念、アイツは永遠の片思いだから」

 子供っぽくペロリと舌を出すと、桃木はむくれて睨んだ。

「何で皆、アイツの話をしたがるかな。ミカも言ってたよ」
「あんな尻軽女に回さないでよ」

 釘を刺すように語尾を強め、桃木は眉を寄せる。眉間に皺が寄った。そのまま背を向けて自分の仕事を始める。
 ミカはキャバ嬢で、店で男の相手をして儲けた金で今度はホストに通って男に相手をさせてストレスを発散させる。そういうループの中で生きているからこそ、白神にしてみれば楽な客ではある。だが、女としては嫌いな部類だ。客だからこそあんな態度でいられる。
 白神は昔から、人を分類していた。
 まず、敵か味方か。友達と仲間と客は味方で、それ以外は皆敵。町中で通り過ぎる人は皆敵だと言う考え方をしているから、客としてこの店に足を踏み入れたミカは味方だが、店を出たキャバ嬢のミカは敵だ。道端で声を掛けられても気付かないふりをして通り過ぎるだろうし、それでも食い下がるなら殴るだろう。
 先にも言った通り、白神は多くのものが好きでは無い。もちろん、そういう冷めた自分も嫌いだ。普通なら薬物に手を出して今頃薬物中毒者になってもおかしくない荒んだ人生を歩いて来た。だから、人を好きになると言う感情がよく解らなかった。そんな人間が何故、普通とは言い難い職業であるかも知れないが、ちゃんと働いて生活しているのか。
 白神はスーツのポケットからシルバーボディの光沢のある携帯を取り出し、開いた。カチリと音が鳴って固定されたディスプレイの待ち受け画像は写真。右には件の男が仏頂面でこちらを睨むように映り、反対側には仮面じゃない笑顔を浮かべている自分。そして、真ん中には一人の女性。

「桃ちゃん」

 桃木はグラスを拭いていた手を止め、首を傾げた。
 携帯に見入ったまま、白神は動かない。胸の中に込み上げて来る感情は、嘗ての自分には無かったものだ。

「タイムマシンって、俺が生きている間に完成するかな」

 桃木は怪訝そうな顔を向けた。

「戻りたい過去でもあるの?」
「――いや」

 白神は苦笑して携帯を閉じた。三人の姿は視界から消え去り、再びポケットの中に舞い戻る。顔を上げると桃木が真剣な表情で目の前に座っていたので少しだけ目を丸くした。桃木は声を潜める。

「過去は戻れない。そういうものなの」
「分かってる」
「だから、失敗しないように一生懸命生きるのよ」

 そう言って、桃木は静かに掌よりも小さな淡いピンク色のプラスチックのケースをテーブルに置いた。半透明で中は覗えず、白神は黙って次の言葉を待つ。

「お客さんから相談されたんだけど、これはアンタの方が向いてるでしょ」

 白神はケースに手を伸ばした。それをゆっくりと静かに開く。

「これは――……」

 ケースの中に何かの灰色の錠剤が一粒転がっている。一般人なら、それで終わりだ。白神はそれを見て一瞬、動けなくなった。
 爪より小さな薬の存在感から目が離せない。心の中で何度も嘘だと疑いながら掌に転がし、色々な角度から見つめた。円盤の真ん中が穏やかなカーブを描き、表面には何も書かれていない。だが、一目見た時それが何か分かった。

「GLAY」

 声が僅かに震えている。

「今じゃ、そんなに珍しいものじゃないけどね」

 呆れた桃木の声が遠く感じられる。白神はそれをケースに戻した。

「本物なの?」
「さぁ。警察に持って行きゃ調べてくれるだろうけど、持ってた時点で捕まる可能性もあるしな」

 警察への信頼の低さを心の中で嘆きつつ、白神はケースを見つめる。

「これ、何処で?」
「N地区の地下クラブ、イエロウで貰ったって言ってたけど」

 ぼんやりとN地区の街並みを頭の中で思い出しながらイエロウの位置を思い出す。汚れた路地を抜けた裏通りの何かの灰ビルの隣に看板があった。まさに、知る人ぞ知る秘密クラブ。名前の通りの黄色い看板だった。
 白神はケースをポケットにしまって席を立った。すぐに桃木が「ちょっと」と呼び止める。

「まだ仕事中でしょ」
「トイレに行くだけだよ」

 そのまま言葉の通り、従業員用のトイレのある控え室に戻って行った。
 わざと客席に面していないルートを辿って行く白神の背中を見つめ、桃木は再び手元のグラスを拭く。透明なグラスについさっきの白神の顔が過った。普段の笑顔を浮かべる余裕さえ無くなる程に動揺した顔が、僅かに恐ろしくもあった。客が見たら別人だと思うかも知れない。
 後悔と罪悪感の入り混じった気持ちのまま、グラスを拭き終えた。


 ロッカーに囲まれた控え室を抜け、店の廊下とは違う殺風景な通路に差し掛かる。白神は再び携帯を取り出し、三人の姿を見つめた。
 真ん中の女性がこちらに向かって楽しそうに笑っている。真っ白な髪と青い目は国籍を疑われるだろうが、歴とした日本人だ。彼女は一瞬を精一杯生きていた。嬉しい時に笑い、哀しい時には泣く。左にいる自分の笑顔をくれたのは彼女だった。一緒にいるだけで空っぽだった自分が満たされて行くようだった。

――龍は淋しそうに笑う

 そう指摘した彼女も悲しそうだった事を覚えている。楽しいと言うのがどういう事なのか分からなかったから、笑う事が出来なかったのだ。でも、二人と過ごして行く内に張り付けた仮面が剥がれ落ちて、笑えるようになったいた。今も仮面は付けて生きているけど、笑えない訳じゃない。
 白神は通路の先にある灰色のドアを引き、トイレに入った。其処もやはり殺風景だが掃除が行き届いている。が、便器には向かわず水道の鏡の前に立った。
 無表情の自分が映っている。これが本当に自分ならば言ってやりたい事が山ほどある。鏡に触れると硬質な感触と冷たさを感じた。
 自分に向かってだけは、仮面が付けられない。笑おうと思う程に目が険しくなって行く。

「灯みてー……」

 件の男を思い出すが、彼は自分で笑えないと言っていた。それから、自分が『欠陥品』だと平然と言った。そう言われて育ったから、それに対して何の感慨も無いのだろう。
 同時に、彼が桃木に『アカリちゃん』と呼ばれていた事を思い出し声を殺して笑った。

「アカリちゃんって何だよ」

 彼を思い出すと、同時に彼女が過る。仏頂面の男と、微笑む女。
 彼女だって幸せな訳じゃなかった。異質な体質で生まれながらも、両親に否定されても精一杯生きようとしていたのだ。その精一杯さにずっと救われて来た。
 ポケットに手を入れると、さっきのピンクのケースが指に当たった。だが、それを無視して携帯を取り出す。開くとまた三人があの頃のまま其処にいるが、それも見ないふりをしてリダイヤル。並んだ女の名前と桃木などの仕事仲間。それ以外の名前が一つ。
 通話ボタンを押すと、呼び出し音がトイレに数回響いた。その後に聞き慣れた不機嫌そうな声が返事をする。

「アカリちゃん、元気?」
『ふざけてるなら、切るぞ』
「ごめんごめん、忙しいのか?」

 何を当たり前の事を、と言うように溜息が聞こえた。警察の中でも核と呼べる部署で務めているだけ忙しいのは当然だ。

「灯、GLAYだ」
『ああ、俺も今GLAYを追ってる』

 驚きもせず後にしてくれないか、と付け加えたので本当に忙しいのだろうとは思う。だが、ここで自分勝手に電話を切れないのが彼の弱さだ。

『これからN地区の地下クラブ『イエロウ』に行く。どうしてもって思うなら、来い』
「……行くさ」 (行き先、同じじゃねぇか)

 内心ヒヤリとしたが、電話は切れた。すぐに次の番号を押す。今度はワンコールの後で切った。その数秒後に同じ番号から掛かり、携帯を右耳に当てる。ピアスがディスプレイをぶつかってカチリと鳴った。

『龍さん、何ですか?』

 低い眠そうな声。電話の向こうで永塚幸太郎は欠伸をした。
 白神は本業のこのホスト以外に、もう一つの顔がある。それは『揉め事解決屋』である。その裏の顔の方が広く、知り合いも多い。永塚はその仲間の一人で後輩のようなものである。

「手は空いてるな。今から駅で待ち合わそう」
『ええ!? 今ですか?』
「分かった。三十分以内だ。俺より遅く来たら許さねぇから」
『それは大丈夫ですけど。龍さん、今仕事じゃ……』

 永塚の言葉を無視して、白神は電話を切った。掛け直されるのも面倒なので電源も切る。そのまま携帯はポケットにしまい、トイレを出た。
 廊下は変わらず静かだったが、奥の方から硬質な足音が響いている。白神は後ろ手に扉を閉め、だんだんと近付く足音の主に身構えた。
 角からスッと姿を現したのは白いスーツに身を包んだ宮代。趣味の悪い金色のアクセサリーを幾つも歩く度に左右に音を立てて揺れる。サロンで焼き上げた黒い肌の中で浮ぶ白目が親の仇のように睨み付けるが、は一瞥を投げただけで通り過ぎようとした。

「おい、待てよ」

 宮代は白神の肩を乱暴に掴み、喧嘩をするような物腰と口調で引き留める。

「何?」

 振り返った白神も不機嫌だと言わんばかりに目を鋭くさせた。宮代は変わらず睨み付け、手に力を込める。指輪が肩に食い込んでいたので白神は少しだけ表情を歪めた。

「お前の客、どんどんいなくなるな」
「狙ってたクセに」
「俺はテメーがナンバーツーなんて認めねぇよ。サボってばっかりで」
「お前の許可なんか元々必要ねぇんだよ」

 その瞬間、宮代は白目がちの目を見開き、白神の肩を壁にぶつけようと力を込めた。
 しかし、動かない。腕が痙攣するほどに力を込めているのにびくともしない。白神はその手を簡単に外して足払いを掛けた。宮代の視界で天地が逆転し、背中に衝撃を受ける。鈍い痛みが後を追った。白神はそれを見下ろし、先程まで肩を掴んでいた手を踏み付けた。
 宮代が小さく悲鳴を上げるのも無視し、煙草を踏み消すかのように踵でグリグリと磨り潰す。

「ここは客席じゃねぇんだよ。今のお前はタカじゃねぇ、俺の『仲間』じゃねぇんだ」

 口角を上げ、可笑しそうに白神は笑顔を浮かべる。目に光が無く、酷く楽しそうに何度も掌を踏み潰した。

「でも、店の中で良かったな。ここから一歩でも出てりゃ……、殺してたかも」

 クックッと喉の奥で笑い、漸く白神は足を退けた。宮代の掌は赤く腫れて指輪は肉に食い込んで血が滲んでいる。最後に宮代は白神の目を見た。その瞬間、背筋を何か冷たいものが走り動けなくなった。
 蛇に睨まれた蛙のように硬直する宮代に再度、一瞥を投げて白神は歩き出した。
 廊下に響く乾いた笑い。宮代はいつまでも動けなかった。


 再び表に戻ると、客層が大分入れ替わっている事に気付いた。ミカはいないし、その席には見た覚えの無い太った婦人が若いホストを二人侍らせて声高々に笑っている。
 白神は再び同じルートを通ってカウンター席に座った。グラスを拭き終えた桃木が慣れた手付きがシェイカーを手に持ってカクテルを作っている。それが出来上がってカウンターに置かれると、早速若いホストがすぐに来て、奥から出されたフルーツの盛り合わせとカクテルを持って客席に消えた。

「お帰り。タカに遭ったでしょう?」
「よく分かったね」
「殴っていないでしょうね」
「ああ、床に叩き付けて手を踏み潰しただけ。顔は傷付けてないし、許容範囲だろ?」

 ニコリ、と白神は仮面のような背筋の寒くなる笑顔を張り付けた。鳥肌が立つのを感じて桃木はそれ以上は追求せず、ただ溜息を吐いてまた自分の仕事を再開しようとシェイカーに手を伸ばす。すると、白神は席を立った。

「ちょっと出掛けて来る」
「また? 仕事どうするのよ」
「アフターとでも言っておいてよ」

 白神は背を向けて軽く手を振った。桃木は再度呆れたように溜息を吐く。

「アカリちゃんによろしくね」

 白神にGLAYを渡した事を今更ながらに後悔しつつ言った言葉。白神はそれを聞いて、入口のドアに手を掛けたところで思い出したように足を止め、振り返る。

「アイツの名前は、アカリじゃないよ」

 視線を落としていた桃木は「えっ」と顔を上げた。
 ドアの向こうはほの暗く、目の前の道路は今日も車が行き交い、街の色取り取りのネオンは既に輝く。昼夜逆転のこの町はまだ目覚めたばかり。人通りが多くなり、クラクションが耳を貫く。それらを全て背景のような、自分を飾り立てるもののように白神は背筋を伸ばして立ち、笑う。

「クロナギアカシ。俺の友達だよ」

 その不敵な笑みを向け、白神はドアの向こうに消えた。




2007.8.28