11.




「振られたからって、気にするな。相手の見る目が無かっただけだ」


 これ見よがしに落ち込む植嶋の肩を叩き、神木が口元に笑みを浮かべる。定型文のような慰めにはこれ以上無いくらいの同情が込められ、何処か歌舞伎役者の口上のような仰々しさが感じられた。
 どうせ毎日のように合コンしているのだから、一度や二度の失敗でめげるべきではないだろう。植嶋は合コンで狙った子と連絡先交換が出来なかったり、相手にされなかったり、お持ち帰り寸前で躱されたりする度に落ち込むのだ。そして、僕と神木はその度に『植嶋君激励会』と言う名の飲み会に引っ張り出されていた。
 まだ明るい街の界隈は、活動時間真っ盛りという若者で溢れている。僕等は既に通い慣れた神木の家で飲み会をすべく、駅前のスーパーを目指していた。
 僕は牛歩で進む二人を眺めつつ、極力他人に見えるように後を追う。存在感が殆ど無い透明人間である神木が並んだところで、通行人には植嶋の声は独り言としか感じられないだろう。
 二人はふと足を止め、振り返る。神木は期待の込められた輝くような目で、植嶋は叱責するかのような訝しげな目で、兎に角、二人は僕のことをじっと見詰めていた。


「お前は本当に、友達甲斐の無い奴だな」
「何だよ、急に」


 バイトの無い折角の時間を、訳の解らない飲み会の為に費やされているのだ。感謝されても、文句を言われる筋合いは無かった。
 そんな僕等の膠着を解いたのは、一人涼しい顔をした神木だった。


「要するにさ、植嶋は藤原にも励まして欲しいんだよな」


 植嶋が頻りに頷き、自分の権利を主張する。僕は呆れた。


「さっきから、神木が励ましてくれてるだろ。十分じゃないか」
「ああ、神木は良い奴だ。最高の友達だよ」


 ちなみに、と神木が横から口を挟む。


「植嶋はイケメンだし、几帳面で服装にも気を遣っている。女の子とご飯に行った時には必ず驕るし、道を譲る時もレディファーストという紳士だ。何事にも忍耐強く、最後まで諦めない。授業にも真面目に出席していて、交友関係も広い。知識も豊富で運動神経も良い。この植嶋の魅力が解らないなんて、相手に見る目が無いとしか思えないね」


 両手を広げて演説する神木に、僕が褒められた訳でも無いのに背中がむず痒くなる。
 つらつらと挙げられる長所に、植嶋が満足げに頷くのが気に食わない。その後頭部を思いきり叩いてやりたい。


「じゃあ、神木が女だったら、植嶋と付き合いたいと思うのか?」
「俺は真面目な人がタイプだ」


 さらりと答えた神木に、植嶋が細やかにダメージを受けたことが心地良い。
 頭の回転が早いのか神木は話題豊富で聞き上手の話し上手だ。しっかり者と思われる反面で、実は結構無責任なことを言う。けれど、僕等の共通認識として神木は良い奴だ。
 がくりと肩を落とした植嶋を不思議そうに見遣り、神木が僕を肘で小突く。
 掛ける言葉が見付からない僕は、そんなところに答えがある訳でも無いけど頬を掻いた。仕事と私どっちが大事なの、と問い詰められた世の中の男の居心地の悪さが解るような気がした。


「気にするな。女なんて星の数程いるんだから」
「星に手は届かないけどね」


 僕の絞り出すような励ましを、一瞬でぶち壊した神木は相変わらず涼しい顔をしていた。
 まるで僕の失言であったかのように睨む植嶋に、こんな奴がモテる訳無いと確信した。




12.




 神木家の最寄駅前にあるスーパーは、タイムセールが終わった直後らしい。
 戦場跡のような閑散たる風景に、僕は死体でも転がってやしないかと身構えてしまう。神木は塔のように積まれた籠を一つ掴むと、片手にぶら下げて僕等を先導した。
 生活感の無い神木も買い物をするんだな、と僕は思った。陳列棚を意味も無く眺める植嶋は行先が定まらずにふらふらしているのに、神木は目的地へ一直線で無駄な買い物を一切しないというようだった。
 新発売を謳うスナック菓子を眺め、僕は店内を彷徨う。陽炎のような存在感で神木が歩く。そして、ふと足を止める。神木は文房具コーナーをじっと見詰めているようだった。


「何してんだ?」
「見なよ」


 無表情で、神木が顎でしゃくる。文房具コーナーには高校生と思しき少女が立っている。鞄の紐をぎゅっと握り締め、真剣な面持ちに僕は目を奪われる。商品を吟味しているようでいて、その横顔は何処か悲壮感が滲んでいる。
 周囲へ目配せする少女から隠すように、神木が僕を陳列棚の影に追い遣る。非難の声を上げようとした瞬間、少女は手を伸ばし、それをスカートのポケットへ忍ばせた。
 万引きだ。
 僕の脳がそれを知覚した時、少女は蒼褪めた顔でその場を離れつつあった。相変わらず感情の読めない無表情で、神木はその後ろ姿をじっと見詰めている。呼び止めるつもりは微塵も無いようで、かの万引きGメンの如く気配を忍ばせている。(存在感の無さはデフォルトだが)


「おい、神木、あれ」
「良いから、黙ってて」


 たかが万引き、されど万引き。万引きの為に営業不振となって閉店した店も少なくないと言う。
 緊張と興奮で掛ける言葉すら失った僕に比べ、神木は本職のように落ち着き払っている。以前の電車で痴漢を捕獲した時と似ている。警官の家系だと言う神木は、正義感が強いのかも知れない。
 しーっと口元に指を立てて、神木は少女の動向を見守る。蒼白ながら、何食わぬ風を装って少女はレジを避けて出口へ向かう。逃げられてしまう。


「何見てんだよ、お前等」


 欠伸交じりに、植嶋が言った。
 無表情に黙ったままの神木は振り返らない。


「あの子、文房具を万引きして」
「厳密には未遂だけどね」


 さらりと神木が言った。店から出るまで、窃盗罪は適用されない。
 だから、神木は止めないのか。今、声を掛けても罪を問えないから黙って動向を見守っているのか。テレビで良く見る万引きGメンも、商品を忍ばせた人が店外へ出るまで待っている。
 そんな僕等の横、植嶋が颯爽を歩き出した。眉間に皺を寄せ、睨み付けるような鋭い眼光で前方を見ている。止める間も無く、植嶋は少女の腕を掴んだ。
 自動ドアの目の前だった。


「ポケットに入れたもの、出せよ」


 声を潜め、植嶋が言った。隣で神木が舌打ちを漏らす。
 蒼褪めた少女が、この世の終わりだと言うように肩を落とす。店員が不審そうに様子を窺っているが、植嶋は少女を隠すようにして文房具コーナーへと連れて行く。
 少女はスカートの中から細長いプラスチックの袋を取り出した。遠目にしか見えないが、それはボールペンのようだった。
 そうだ。ボールペンだ。百円程で、大量生産されたただのボールペンだった。
 商品を戻し、植嶋が言う。


「もうすんなよ」


 半泣きで少女が駆けて行った。神木が横目に見遣るその視線が、ぞっとする程に冷たい。
 店を出て行った少女を咎める事無く、植嶋は戻されたボールペンをじっと見詰めていた。
 籠を片手に下げたまま、普段の態を崩さずに神木が歩み寄って行く。


「現行犯逮捕するべきだったじゃないか」


 口元に微かな笑みを浮かべているが、神木は微塵も感情を窺わせない淡々とした声で言った。
 植嶋は口をへの字にして、いかにも不満ですと無言で訴えている。神木は薄らと笑みを浮かべ、相変わらず人形のような無感情で諭すように抗議した。


「今見逃したところで、あの子は同じ犯行を繰り返すよ。問題は万引き行為そのものじゃなくて、あの子の心だからね」
「いいだろ、別に」


 何でもないように、植嶋が言った。既に視線は文房具からアルコール類の陳列棚へと向けられ、あの少女への興味すら失いつつあるようだった。


「目の前で犯罪が起こったら、気分悪いだろ。この先、同じことを繰り返すとしても、今目の前で一つの犯罪が未然に防がれたんだ。それでいいだろ」


 酷く単純で、短絡的だ。
 植嶋に対して、神木の言うことは尤もな正論だった。最終的には、今此処で痛い目を見ることがあの子の為になるのかも知れない。取り返しの付く小さな失敗を経験させることが、将来的にはあの子にとっての幸せなのかも知れない。
 けれど、植嶋の言うことだって正しかった。
 崖から落ちそうな人に、一度転落すれば命の有難みが解るだろうと神木が言う。でも、どんな人でもその状況になればなりふり構わず駆け寄るのではないだろうか。そうであって欲しい。僕は切に思う。
 神木は大きな目を、眼球が転がり落ちそうな程に見開き、固まっている。充電切れのロボットのようだった。流石に苛立って何か抗議するだろうと僕は思っていたが、予想に反して神木は凪いだ水面のように落ち着いていた。


「そんなことでいいのか……。いや、それでいいんだよな」


 自分へ言い聞かすように呟いた神木は、何故だか僕には泣き出しそうに見えた。




13.




「鬼塚知らないか」


 昼下がりの大学中庭は、相変わらず平和そのものだった。
 植嶋は今日も髪をワックスで立たせたつんつん頭だ。僕と楓がベンチで休んでいると、此方の都合なんてお構いなしに割り入って来る。尤も、僕等とて暇を持て余していたから構わなかった。
 女好きでお調子者だと認識していたが、万引きの一件で僕は植嶋が実はすごい奴なのではないかと見直しつつあった。だから、植嶋が例え昼間に女の子を探していたとしても何か重要な話があるに違いないと踏んだ。


「鬼塚さんなら、さっきまで食堂にいたけど」
「マジかよ。擦れ違ったかなぁ」


 後頭部を掻きながら、忌々しげに悪態吐く。


「鬼塚さんが如何したの?」
「あー、ちょっと用事があってさあ」


 楓の訝しげな目付きが普通の反応なのかも知れない。
 植嶋は気にする素振りも無く、尻のポケットから二つ折りの財布を取り出して、一目を憚ることなく中身を数え始めた。
 どんな用事だろう。僕が心を踊らされそうになったその瞬間、後ろから声がした。


「女の子のアドレスを聞きたいんだね」


 殆ど断言するような、それでいて柔らかな口調で、鬼塚シズクが言った。
 僕等が振り向いたのは殆ど同時だった。小花柄のワンピースを纏った可憐な少女は、まるで天使の祝福を受けたかのような美しい微笑みを浮かべている。
 口紅とは異なる自然な赤みを帯びた口元が、僅かに弧を描いた。


「逃がした魚は大きかったみたいだね」
「うるせーな。いいからアドレス教えろよな」


 気怠げに悪態吐く植嶋に、僕の抱える尊敬の念はどんどん薄れて行く。


「幾ら欲しいんだよ」


 恐喝紛いの剣幕に、鬼塚もたじろぐ様子は無い。まるで手馴れているようだった。
 見るからに弱々しい可憐な少女を、僕は庇うべきなのかも知れない。隣で楓がじっと見詰めて来るので、僕は面倒事に巻き込まれる予感を覚えながら、二人の間に割って入った。


「物騒な話、するなよ」


 仲裁に入った僕を、植嶋がきょとんと見遣る。僕は何故だか居心地が悪くなった。


「鬼塚も、嫌ならはっきり断れよな」


 もごもごと不明瞭に言いながら見遣れば、鬼塚もまた大きな瞳を見開いて小首を傾げている。
 僕が間違っているのだろうか。言葉に窮して楓へ視線を向けるが、助けは一向に無い。
 数秒の沈黙の後、植嶋が状況を察したのか呆れたように、軽蔑するように目を細めた。


「何を勘違いしてるんだか知らねーけど、別に悪いことしてる訳じゃねーからな」
「じゃあ」


 面倒臭そうに植嶋が後頭部を掻く。ワックスで固められた短髪がぴょんぴょん跳ねた。
 穏やかな昼下がりの中庭で、如何してこんな状況へ巻き込まれなければいけないんだ。不平不満を零したいのは僕だと言ってやりたかった。植嶋は鬼塚を指差し、吐き捨てるように言った。


「こいつ、情報屋なんだよ」
「はあ?」


 情報屋と言えば、所謂フィクションの世界の登場人物だ。物語の発端や進行役等であることも多い重要人物である。しかも、裏社会に顔が利いたり、あらゆるコネクションを持っていたりして、様々な謎を内包することが多い。あくまでフィクションである。
 鬼塚が、情報屋?
 冗談は存在だけにして欲しいと、大凡失礼なことを考えながら僕は鬼塚を見た。自然と視線が鋭くなり、鬼塚は困ったように微笑んだ。その苦笑に胸が痛くなり、僕は罪悪感を覚えた。


「情報屋って、何だよ」
「だから、そのままだよ。金さえ払えばどんな情報も仕入れて、提供してくれる」


 そんな馬鹿な。
 僕が否定しようとした先で、鬼塚がピースしている。先程の罪悪感が浄化されたような気がした。
 緘黙症のように黙った僕を置いてけ堀に、楓が問い掛けた。


「情報って、どんなものでもいいの?」
「大小は問わないけれど、料金は確り頂きます」


 鬼塚は右手でオッケーサインを作ると、悪戯っぽく笑った。まるで年端も行かない清純な少女のようだった。
 楓が「へえ」と嬉しそうな声を出した。嫌な予感を覚えた僕は撤収しようとするが、すぐに捕まり脇腹を肘で小突かれた。


「何か依頼してみようよ」


 面白がっている楓に、僕は反対する権利を持ち合わせていなかった。
 財布に幾ら入っていただろう。僕の思考とは関係無く、楓は依頼する内容を考えているようだ。
 じゃあねぇ。楓が言った。


「平成のジャック・ザ・リッパーについて教えて?」
「いいよ。料金設定は?」


 楓が僕を見る。僕は財布を覗きながら、控えめに言った。


「三千円くらいなら」
「えー、少ないよ」


 非難の声を上げる楓とは別に、鬼塚は可愛らしく微笑んでいる。
 僕が三千円を手渡すと、鬼塚は小さく息を吸い込んで口を開いた。


「平成のジャック・ザ・リッパーとは、有名な某インターネット掲示板発祥の連続殺人鬼の通称である。被害者に共通性は無く、場当たり的な無差別殺人だった。だが、犯行現場に証拠を残さず煙の如く消えるその様から、伝説的な殺人鬼を重ねたものと思われる。最初の犯行は都内某所。白昼堂々の犯行で被害者は七名。下は小学生から、上は老人まで、全て同一の刃物で頸動脈を切り裂かれ絶命している。目撃者は無く、鮮やかな犯行手口は世間を大いに騒がせた」


 淀みなく一気に語った鬼塚に、僕は呆気に取られた。


「二度目の犯行も都内。それから都内を転々としながら、僅か二週間で老若男女問わず二十一名の命を奪った。目撃者も証拠も残さず消える犯人に、世間では海外のテロ組織による犯行ではないかという噂も流れた。――まあ、このくらいのことはインターネットで幾らでも調べられるよね」


 鬼塚が微笑む。楓が頷いた。


「最後の犯行もやはり都内。被害者は警察官だった。小学校の通学路ということで巡回していた巡査長が遭遇。応援を呼ぶと共に犯人と応戦するが、頸動脈を切り裂かれ死亡。その後、駆け付けた警察官等に逮捕された犯人は小柄な女性であった。名前は朝比奈香理、当時二十三歳。家族は無く、都内で勤務する極普通のOLだった。犯行動機は無く、逮捕後の精神も正常を保っていた。被害者や遺族への謝罪や贖罪意識は皆無であり、犯行を振り返って『楽しかった』と微笑んだ。このことから、世論は彼女をサイコパスとし、世間を恐怖の渦へと叩き込んだ」
「ああ、覚えてる」


 楓が言った。確かに、僕も覚えていた。
 今から大体五年くらい前だっただろうか。当時中学生だった僕等の通学路は警察官によって固められ、まるで某国の要人が来日したかのようだった。だが、世間は恐慌状態に陥り、平時とは明らかに異なる非常事態だったのだ。
 犯人逮捕の報道は大々的で、裁判の様子は異例の生放送だった。
 犯人――朝比奈香理は終始笑顔だったように思う。見た目は小柄で可愛らしい女性で、口振りもまるで極普通の女性と変わらず、むしろ冷静でしっかりした印象を持った。だからこそ、彼女が連続殺人犯ということの異常性が際立った。
 鬼塚はうんうんと頷き、続けた。


「此処まではサービス。此処からが三千円分の情報」


 勿体ぶるような口ぶりに、僕等は何時しか惹き付けられている。
 鬼塚が言った。


「平成のジャック・ザ・リッパーによる最後の被害者は警察官だった」
「警察官」
「そう。名前は、神木蓮」


 ざわりと、鳥肌が立った。
 警察官、神木。聞き覚えのある単語だ。僕は言葉を失った。
 鬼塚は気にすることなく続ける。


「享年、二十五歳。殉職による二階級特進により、警部となった。茹だるような熱波に襲われた八月二十一日、午後四時半。都内の某小学校の学区内を巡回していた神木巡査長は朝比奈と遭遇。どのような遣り取りが行われたのかは今も不明であるが、神木巡査は朝比奈を発見後、無線で仲間へ連絡。仲間が神木巡査長の呻き声を聞いたことから、応答中に襲われたものと思われる。朝比奈は小型のナイフで神木巡査長の頸動脈を一瞬で切り裂いた。現場は血の海と化し、朝比奈も大量の返り血を浴びていた。朝比奈に襲われた神木巡査長は頸動脈から噴水のように血液を迸らせながらも決死の覚悟で応戦した。これは、朝比奈の左脛に神木巡査長の歯型が残っていたことから推測されたものである」
「歯型……」


 首筋を切り裂かれて尚、神木巡査長は殺人鬼を食い止める為にその左脛へ噛み付いたのだ。何が彼を突き動かしたのだろう。恐ろしいまでの執念だ――。


「左脛へ噛み付かれた朝比奈は、恐らく逃亡の為に神木巡査の首を切り落とした――」
「もういい!」


 思わず、僕は叫んでいた。
 もういい。十分だ。こんな血腥い情報、僕には必要無い。
 耳を塞ぎたかった。けれど、真っ青な顔で立ち尽くす楓の前で、僕だけ逃げ出す訳には行かなかった。
 鬼塚は何事も無かったかのように、微笑んでいる――。
 沈黙が、膜のように周囲を包み込む。差し込む春の日差しが、今は何処か白々しく感じられた。
 居心地の悪さを感じていても、それを打破すべき言葉は何も浮かばない。
 植嶋が面倒臭そうに言った。


「でも、終わったことなんだろ。じゃあ、もういいじゃん。そんなことより、俺の依頼は如何なったんだよ」


 植嶋は携帯を取り出し、合コンで知り合ったらしい少女のアドレスを聞き出そうとしている。熱心に料金交渉する植嶋は、先程の話を気にする様子は無い。
 興味が無いのか、気を使ったのか判別は付かない。僕等は時間を確認し、講義があるから、と口実を付けて逃げるようにその場を退散した。




2014.5.3