a sunflower







 「 あー、向日葵咲いてますよ。向日葵。 」


 子供のように蜂谷が騒ぐので、何かと思えばグラウンドの隅に咲いた向日葵だった。
 夏の甲子園予選真最中の、暑い日だった。



 ミーンミーン…。
 蝉が五月蝿い中で、泥だらけになりながら練習をしていた。
 去年ならば、こんな風に練習する事も出来なかった。



 「 そんなに嬉しいのか? 」


 黄色の大輪を見せる向日葵。グラウンドは日当たりがいいが、人が多いのによくも咲いたものだ。
 蜂谷は笑っていた。嬉しそうに。


 「 俺、向日葵好きなんすよ。 」


 花が好き、なんて女々しいヤツだな。と笑ってやった。
 蜂谷はそれでも苦笑していた。


 「 向日葵って、見てると元気になれるじゃないすか。 」

 「 そうか? 」

 「 向日葵って、太陽の方を向くんですよ。沢山の光を浴びる為に。 」

 「 知ってるよ。でも、実際は葉や茎が少しずつ回転してるだけに過ぎないんだ。 」


 蜂谷は「 夢が無い。 」と騒いだ。
 その向日葵には、思い出があった。







 一年前。
 先輩が威張って下級生だった俺達はろくに練習も出来なかった。
 悔しくて悔しくて。
 歯向かえば、殴られたりもした。

 俺は、二年だった。
 その日は、反抗した赤星が先輩に殴られて鼻血を出したらしかった。
 でも、赤星は「 暑くて。 」と苦笑していた。

 古川は言った。
 「 こんな思いは、俺達だけで充分だ。次に来る一年には、いいものを残してやりたい。 」
 そう、思った。

 その時、マネージャーがグラウンドの隅に種を植えた。
 それが向日葵だった。

 この花が咲く頃には、先輩はいない。
 その時には、皆で自由に野球をしよう、と。








 向日葵は、咲いた。


 「 向日葵見てると、頑張ろうって思うんですよ。 」


 はっと遠退いた意識を取り戻す。
 蜂谷は笑っていた。


 「 向日葵は、光を手に入れる為に太陽の方を向く。それは、今のままじゃ光が掴めないからなんですよ。 」


 どうにかして、光を掴もうと。
 その為に動く力は、人と同じだ。と、蜂谷は言った。


 「 こんなとこに咲くのは、きっと大変だと思うんすよね。それでも、咲いてる。こんなに綺麗に。 」


 その笑顔に、心臓を掴まれたような気持ちになる。
 ああ、この向日葵は俺達と同じなんだな。


 「 …そうだな。向日葵は、すごいよ。 」


 そう呟くと、蜂谷は満足そうに笑った。
 初夏の出来事だった。