キャプテン座談会

 ある日、某テレビ局の他愛の無い企画でこんな話しが持ち上がった。
 今、全国の注目を集める甲子園をネタにしたよくある企画。それは、注目を集める強豪校のキャプテンによる座談会。野球に置ける敵同士と言う枠を取っ払った、18歳の少年達のリアルな会話記録である。

 ちなみに参加者…。
蜂: 蜂谷裕。主人公。阪野二高のキャプテン。
浅: 浅賀恭輔。裕のライバルにして親友。毎年甲子園制覇を果たす怪物投手。名門朝間高校のキャプテン。
笹: 笹森エイジ。裕のライバルにして親友。毎年甲子園で優勝を逃す準優勝校のキャプテン。捕手。
如: 如月昇治。裕の地区、神奈川が誇る天才投手。私立東光学院のキャプテン。
武: 武藤直人。中学最後の公式試合にて裕に因縁あり。埼玉の古豪、慶徳学院のキャプテンで投手。

浅: 「…こんにちは。」
笹: 「何や、無愛想やな。もっと元気に行けや。」
武: 「元気も何も無いと思うけどな。」
蜂: 「確かに。」
如: 「まぁ、いいよ。始めようぜ。」


浅: 「座談会って言われても、話す事無いんやけど。」
笹: 「そう言う時の為にテーマが色々あるんやろ?読んでみ。」
浅: 「どれや。」
如: 「沢山あるな。好きなの選ぶのか?」
武: 「それって面倒臭くね?」
蜂: 「あみだくじにしようぜ!当たった人が話す!」
浅: 「それでええか。」


笹: 「あ、俺や!」
蜂: 「テーマは…今だから笑える思い出!」
笹: 「そうやなぁ…。やっぱ、中学の時やね。殴り合い。」
浅: 「え?どの?」
笹: 「阿呆!俺が殴り合いばっかしてるみたいな言い方すんなや!」
蜂: 「否定出来ないし。」
笹: 「…まぁ。」
如: 「で、殴り合いって?」
笹: 「俺と恭輔の。お互い骨折っちゅー重傷やったからなぁ。」
武: 「何で?」
浅: 「中学に入学したての頃、こいつ不良やったんや。」
蜂: 「学校来ないし、家帰らないし、野球やらないし。」
浅: 「お陰で俺はバッテリー組めんし。そいで、裕がエイジに呼び掛けに行ったんや。」
笹: 「裕があんまり馬鹿やったから、殴り飛ばして。」
蜂: 「あの後、頬が腫れて真っ青になった。しばらく治らなかった。」
笹: 「若気の至りや。」
如: 「それが何で浅賀との殴り合いになったんだよ。」
笹: 「恭輔が掴み掛って来たんや。…何で、裕を殴ったんや!って。」
武: 「それで?そんなんで殴り合ったって、意味無いじゃん。蜂谷がやったならともかく。」
笹: 「理屈じゃないねん。」
如: 「綺麗に纏めようとしてるし。」
武: 「どっちが勝ったんだ?」
浅: 「どっちって、決まらなかったんや。俺らお互いボロボロのトコやのにやばいヤツ等に囲まれて。」
笹: 「あれは焦ったなぁ。」
如: 「逃げたのか?」
笹: 「腹括って突破しようとしたんや。
浅: 「無理やったけど。」
武: 「え?」
笹: 「踏ん張ったんやけど、さすがに多勢に無勢っちゅーか。意識が飛ぶ寸前に裕が来たんや。」
浅: 「よくあんな場所に来よったわ。死ぬかもしれんのに。」
蜂: 「実際死ぬほど恐かったけどねー。」
如: 「蜂谷が一人で二人を助けた訳無いよな?」
蜂: 「警察に通報したからね。」
武: 「あざとい…。」
蜂: 「何か言ったか?」
武: 「別に。」
笹: 「ま、それが今だから笑える話や。終わり!」
如: 「今でも笑えねーだろ!」


如: 「あ、俺や。テーマは…尊敬する人?」
笹: 「おもんない。別のにせーや。」
蜂: 「ま、いいじゃん。高校生らしくて!」
如: 「別に尊敬する人はいないなぁ。」
浅: 「それじゃあ終わってまうやろ!何でもええ!言え!」
武: 「苦しいなぁ。」
如: 「俺は誰かに憧れたりしないんだよな、昔から。誰かみたいになりたいとは思わなかったし。」
笹: 「ピッチャーの典型やな…。」
蜂: 「ピッチャーってそう言うヤツ多いよな!」
浅: 「馬鹿にしてんのか、裕?」
蜂: 「ん?違うよ、思っただけ。」
笹: 「でも実際そうやろ。プライド高く、神経質。我が強くて傷付きやすい。」
蜂: 「あー、そうかもな。」
笹: 「ここにおんの五人中三人が投手やん。俺と裕がおらんかったらとっくに話に詰まっとるか喧嘩しとるやろ。」
武: 「無い無い。平和主義だからね。」
蜂: 「嘘だー!」
笹: 「俺の知る限りピッチャーは皆好戦的やで?」
如: 「その方がピッチャーとしては良くない?」
蜂: 「気が弱いよりは助かるな、確かに。」
如: 「ピッチャーって似たりよったりじゃね?強いピッチャーはそうなんだよ、きっと。」
浅: 「つか、性格の問題やない?」
蜂: 「ああ、血液型占い?」
浅: 「ちゃうけど。…まぁ、ええわ。」
笹: 「A型は几帳面なんやでー。」
浅: 「俺もAや。」
如: 「俺も。」
武: 「Aは神経質で融通が利かないんだよ。日本人はA型が多いし。」
如: 「お前は?」
武: 「ABだよ。」
笹: 「二重人格や!変わり者やー!」
浅: 「ははは!そうかもしれんな!」
蜂: 「あ、俺はO型。」
笹: 「知っとるよ。見るからにOやもん。」
浅: 「大雑把で小さい事は気にしない。」
如: 「大らかって言うけど、お前は典型かも知れないな。」
笹・浅: 「大らか!?コイツめっちゃ喧嘩っ早いで!?」
蜂: 「状況次第でね。」
武: 「意味深だなぁ。」


武: 「おっと、俺だな。…忘れられない思い出(屈辱編)。」
蜂: 「パスすれば?」
武: 「じゃ、もう一度。」
笹: 「こら!何しとんねん!」
浅: 「ルールはルールや!」
蜂: 「言うまでも無いって言うかさぁ。…睨むなよ。」
武: 「…忘れられない思い出って言うと、どうしてもあの試合を思い出す。」
笹: 「中学の決勝戦か?」
浅: 「それは思い出に残るやろなぁ。俺もお前の立場やったら絶対に忘れられんもん。二死満塁で逆転ホームランなんてなぁ。しかもカウント2−0やったやろ。」
如: 「あー、あの時の投手お前だったんだっけ?」
武: 「そうだよ。」
蜂: 「あれは俺の中学で最初で最後のホームランだよ。本当に奇跡だったもんな。」
浅: 「今思うとあれはすごかったなぁ。あの場面でよく打った。」
笹: 「ほんまや。あの試合、確か途中で恭輔崩れたんやったな。」
浅: 「うっさいねん。」
武: 「そのチャンスに点差つけたってのになぁ。」
如: 「あの頃の大崎中はマジ強かったよ。大型ピッチャーがいて、スラッガーがいて、俊足の走者がいて。」
武: 「そういや、何であの時は四番が蜂谷だったんだ?やっぱ、笹森の方がアレだったの?」
笹: 「俺は長打をドンドン打つタイプのバッターや。裕は守備の隙を縫って打ち分けるタイプやった。武藤からそんなに長打が取れるとは思ってなかったから、融通の利く裕が四番だったんや。」
武: 「…作戦だったのかよ…。」
如: 「そういえば、あの時蜂谷の髪は金髪だったよな?」
蜂: 「ああ、そういえばそうだったっけ?」
浅: 「あれは単なる事故のカバーやねん。」
笹: 「コイツ頭から漂白剤被りよって、髪の毛脱色されて大変だったんや。病院にも行ったし。」
蜂: 「実際死ぬかと思った。」
浅: 「髪白なって、そのまま決勝は出られへんやろ?急に老けたみたいやん。」
笹: 「そんで、家にあったヤツで染めたったんや。綺麗に染まってたやろ?」
武: 「すげー浮いてたけど。」
如: 「金だったもんな。」
浅: 「染めた後で気付いたんや。」
笹: 「ま、それも思い出やな!」


浅: 「おっと、俺や。…休日の過ごし方。」
笹: 「うわー!つまらんヤツに出よった!」
蜂: 「解り切ってるもんな。」
如: 「予想は着く。」
武: 「まあ、とりあえずどうぞ。」
浅: 「何やねん、失礼なヤツらや。予想の通り野球漬けや!当然やろ!」
笹: 「天下の朝間高校やからなぁ。」
浅: 「そうや!そう言うお前等も大して変わらんやろ!」
笹: 「そうやなぁ。…あ、でも俺は社会勉強もちゃんとしとるで!」
武: 「バイトか?」
蜂: 「そんないいもんじゃない。一部の暗い社会の勉強だよ。」
如: 「何それ。」
浅: 「ヤクザや。」
武・如: 「はぁ!?」
蜂: 「エイジの家は極道なんだよ。で、エイジは次期組長。」
武: 「マジかよ…。」
如: 「信じらんねぇ…。」
笹: 「指詰めたりとか色々な。」
浅: 「そう言うリアルな話はここでせんでや!放送されんねんで!」
笹: 「別にええやん。ちょっとくらいやんちゃな方が受けるやろ?」
蜂: 「やんちゃ過ぎるだろ!」
笹: 「そう言うお前等はどうやねん。」
如: 「俺は普通に遊びに行ったりするよ。もちろん、休日練習もあるけど。」
武: 「そうだな。」
笹: 「どうせ男だけでやろ。ムサいでー。」
浅: 「お前はとっかえひっかえやもんな。最低や。」
笹: 「好意を無駄にしたないんや。」
蜂: 「言葉はいいけど、現実は最低だもんな。」
笹: 「やったら、恭輔はどうやねん。素っ気無いしクール気取って…。」
浅: 「俺はその気も無いのになんてしたないねん。お前よりはマシやろ?」
如: 「これでかなりイメージ下がったな、笹森。」
笹: 「さ、最悪や…。」
武: 「何でこんなヤツがもてるんだ。」
浅: 「外見だけやろ。」
蜂: 「いや、エイジは何だかんだいいヤツだよ。相談にも乗ってくれるし、頼りになるし、レディーファーストだし。」
笹: 「…裕…お前はほんまええヤツやな…。感動したで…。」
浅: 「あーあ。何て事すんねん。こんなヤツは落ち込ませとけばええねん。」
笹: 「何や!お前俺に恨みあんのか!?」
蜂: 「冗談だよ。」
笹: 「…解っとるよ。」
如: 「本当お前等仲良しだな。」
武: 「待てよ。まだ蜂谷の訊いて無い。」
蜂: 「あ、俺?普通だよ。休日は部活とか、遊びに行ったりとか。」
武: 「つまんね。普通か。」
如: 「…ただ、遊びに行く相手が男じゃないってトコだな。」
笹・浅: 「どう言う事や!」
如: 「コイツ彼女いるもん。野球部のマネージャーだろ?」
蜂: 「何で知ってんの?」
如: 「お前等の交遊範囲が広いんだ。時々見るし。」
笹: 「初耳なんやけど!」
蜂: 「言ってねぇもん。」
浅: 「何でやねん!」
蜂: 「何でって…別に言う事じゃないし。」
笹: 「…裕、ちょっと詳しく話せや。どこまで行ったとか。」
蜂: 「はーい、ストップ。これ放送されるからねー。」
浅: 「後で覚えとけや、裕。」
武: 「ご愁傷様。」


蜂: 「最後だし、俺か。ええっと、将来の夢。」
浅: 「定番やね。」
蜂: 「そうだなぁ…。……。」
笹: 「何で終わんねん!」
武: 「言うまでも無いって事だろ?」
蜂: 「はは。」
如: 「何だよ、その気の無い笑い声は。」
蜂: 「俺、決まってないんだよ。将来の夢。」
浅: 「え?野球は?」
蜂: 「俺自身どうしたいのか解らないんだよ。」
笹: 「どういう…」


スタッフ: 「ありがとうございましたー。」
笹: 「ちょ、待ってください!まだ話は…って、裕逃げんなや!」
浅: 「裕!」


蜂: 「…悪いけど、俺にはまだ時間が足りない。決定を下す為に。」


武: 「…よく解んねぇけど、そう言う事なんだろ?コイツの未来はコイツだけのもんだ。口出ししてやんな。」
如: 「本人の決定した意思を変えられるのは本人だけだ。…他人が変えられたとしても、残るのは後悔だけだよ。」
笹: 「…お前等…。」

 その後、この記録が世間に放送される事は無かった。
 その理由は何処かからの大きな圧力であるとも、本人達の意思とも言われているが定かでは無い。