01 大切なのは、後悔しないことじゃなくて、後悔から立ち上がること。
高校最後の夏が終わった。それでも、夏はまだ真っ盛りで暑い日が続いている。
如月はその強い日差しの下を歩いていた。手には水の入った桶。歩いて行く石畳はあの場所へと続いている。今まで来る事の出来なかった場所に。
そう、高砂祐の墓。
竹林から吹く風が涼しく心地いい。御盆の時期なだけあって人は割りと多かった。そんなに大きな墓地ではないので少ない方なのだろうが。
お婆さんや、中年夫婦、子供。沢山の人とすれ違いながら如月は墓場を目指す。最後に来たのは、祐が死に墓に収められる時だった。
あの時、涙なんて流れなかった。
多分、罪悪感の方が大きかったんだと思う。
俺のせいで死んでしまった。
俺が気付かなきゃいけなかったんだ。
人知れず努力して傷付いてしまったあいつに。
でも、俺は気付けなかった…。
ようやく墓に着いた。供えられた菊の花はまだ新しい。誰かが供えてくれたんだろう。でも、少なくとも一日は経過している。線香が燃え尽きでいた。
雑な蝋燭の立て方。親族じゃないかも知れない。中学のチームメイトだろうか。そう思うと胸の中に熱いものが込み上げた。
こんなに皆に愛されていたのに、なんで逝っちまったんだよ。
祐の痛みに、気付いてやれればよかった。
そうしたら、こんな悲劇は起こらなかっただろう。
――そいつは、お前の死なんて望んじゃいねぇよ。
ふいに、裕の声が過った。同じ名前の読みを持つ小さな選手。ふと思い出す。
そうだ、俺はあいつに助けられたんだ。命も心も。
どうすればいいかなんて、始めから解っていたのに。
如月は小さく笑った。もう、涙を流すには遅過ぎるから。
高砂祐の墓を磨き、花を供えて線香に火を点ける。そして、しばらくの間眼を閉じた。
元気か、祐。
死んでるのに元気も無いか。でも、俺は元気でやってるよ。
お前のいなくなった世界は寂しいよ。俺は今でもお前を救えなかった事を後悔してる。
あの時、俺に蜂谷みたいな勇気があったならお前を救えたかな。
ああ、はっきり言って…後悔してるよ。
どうしてあの時、俺はお前の痛みに気付いてやれなかったんだって。
俺が一番気付かなきゃいけなかったんだよ。親友のお前の事なんだから。
夏、終わったよ。結局、甲子園には行けなかった。でも、なんか妙に納得しちまった。
悔しくない訳じゃないんだけどな。ただ、あいつらが甲子園に行くのって運命な気がするんだ。
…ま、どうでもいいか。こんなこと。
いつか会おうな。必ず会おうな。
生まれ変わっても、何度でも。それで、今度は必ずお前を助ける。
そうして仲直りしたら…またキャッチボールしような。
それだけで十分だから。
如月は眼を開いた。随分の間眼を閉じていた。線香が半分くらい燃えてしまっている。
「…じゃ、行くな。」
如月は立ち上がる。そして、歩き出す。
振り返る事は無かった。