第一部 The unknown genius.完結につき後書き



1.最後の大会

 記念すべき第一話。この頃はどんな話が書きたいか、この先どうするか。そんな事も考えずに書き殴っていましたね。とにかく、ピッチャーの駆け引きと何処か風変わりなバッターが書きたかったのです。
 もちろん、ここで書かれる金髪打者の桜庭は後々出てくる蜂谷裕。つまりは主人公です。その内、何故金髪だったのかも書きたいですねー。

2.西からの挑戦状

 ここで登場する市河俊。孤独な天才ピッチャーとの出会いです。彼は主人公にないものを沢山持っているのですが、逆に主人公にあるものを持たない。正反対に見えて、似ている二人の勝負が書きたいと思いました。ちなみに、彼等の言う町から見える山と言うのに、イメージは『ドラえもん』の裏山でした(笑)

3.市河家の食卓

 この話の昔のタイトルは実は『ポジション』だったのです。確かにメインは主人公のポジションと、その謎だったのですが、後で考えてみて変えました。『伊藤家の食卓』みたいだ…。
 この辺りにも複線を張ろうと思って書きましたが敢え無く玉砕。

4.キャッチャー

 天才ゆえの孤独を抱える市河俊には、やはり、それに見合うキャッチャーがいなくては。高校入学後、出会うと言うのもありだったのですが、それ以前から友達の方が書き易いかな、とここに。

5.たった一人の

 たった二人の家族。親を亡くしてしまった蜂谷兄弟(裕・瑠)の孤独感を書きました。両親の亡くなった理由につきましては、第二部のBraves.で書きます。
 また、中学校の全国大会、優勝校の金髪四番バッター『桜庭』の正体。本当はもっと後の方の試合で明らかにさせる予定でしたが、予定外に早期発覚してしまいました。

6.夢と言う壁

 ポジティブな主人公のネガティブなところ…。それを書く予定だったのですが、結局希望的な話になりましたね。思えばこの頃からすでに市川俊はキャラクターが上塗りされていました。クール…のつもりだったんですが…。

7.無名の天才

 第一部の和訳は無名の天才。つまり、メインはこの話なのです。もちろん、それは市河俊を指します。昔ヒマな時に電子辞書で遊んでいたのですが、『無名戦士』と言う言葉を見つけて格好良いなと。
 そこから、無名の天才へ。また、昔書いていた話(野球小説ですが、これ以上に酷いものでした。)で、天才の主人公がバッティングセンターを荒らしていて、学校側に知られたくないので、表彰状の名前を無記名で受け取った為、周囲の人間が無名の天才打者と呼んだ…なんてオチでした。
 ここで登場した禄高尚樹は、突発的に書いたので失敗したかな、と。後々消えて行きそうだと心配していましたが今では主人公に負けず劣らず書きやすい馬鹿なキャラクターです。

8.兄弟

 仲良しの兄弟もいいけど、やっぱり、男同士だし喧嘩もすると思うのです。そこで、裕と瑠の喧嘩話を。喧嘩と言うほど大したものではないし、一方的に瑠(弟)が怒っているだけに見えますね…。何時の間にか主人公は大人びて(兄らしく)なっていました。(笑)

9.主将の器

 我等が主将、尾崎晃平の話。彼等が一年、二年の頃は高校も酷い有様で、『Mr.FULLSWING』の『十二支高校』の昔に勝るとも劣らずの年功序列だったのでした。
 バタバタと辞めて行く仲間の背中を見つめる彼の思いなど、優しく芯の強い尾崎の器の大きさを。その制度がなくなって(先輩がいなくなって)入学した主人公らには決して解らない痛みだけども、無視して通る事は出来ない出来事だと思います。

10.ROOKIE!

 阪野第二高校の新入部員。その中でも、飛びぬけて上手い選手として市河、爾志、禄高などを書きました。天才と呼ばれる彼等の中では明らかに見劣りする主人公も、実は他とは明らかに違うずば抜けた実力の持ち主であること。それを書いておきたかったのです。
 二年生は初ですが、一コ上の先輩として赤星啓輔を登場させました。来年はその中から主将を出さなくてはいけないの訳ですから、慌てて登場させました。

11.傷付かない

 やっぱり、主人公である以上誰にでも好かれる人間であってほしい…。そう思っていましたが、嫌われない人間なんていない、とある唄に教えられ、その通りだなと思いました。そうやって色々な経験をして彼には成長して欲しかったので、敢えて逆境に。
 でも、やっぱり、その争いを治めるのは発端である主人公で。暴力どころか、怒る事もしないで解決させてしまうと言う離れ業を使い早急に何とかする頭の良さを書いておく必要があった訳です。優勝校の主将の名前は伊達じゃない、と。

12.二人の天才

 主人公のライバル、浅賀恭輔と笹森エイジの登場です。名前だけですけど。二人は他の誰よりも才能溢れる天才である必要があり、名門高校やら、強豪校やらに行ってもらいましたが。

13.井の中の蛙

 主人公だけが喧嘩をしたり、成長したり、過去を見せたりするのでは面白くないので市河俊の中学のチームメイトを登場させました。思いきり使い捨てキャラです。
 出来過ぎと言われようが、その騒ぎを諌めるのは主人公。正直なところ、話に頭を突っ込んでおいて参戦しながらも第三者気取り…と言う身勝手さは目に余りますが、まだまだ子供ですからね。憎めない少年なんです。

14.リトルヒーロー

 元、『信念、克己』と言うタイトル。変えました。なんか、しっくり来なかったんで。こっちも合わないかもしれませんがね(苦笑)。
 新陽輔初登場ですが、彼は始め完全な敵キャラ。ですが、徐々に主人公を認めてくれる人が欲しかったのです。
 己を越え続ける。スポーツにしても、何にしても、それはすごく大切な事だと思います。

15.好機到来

 紅白戦。ダークホースとして主人公が参加しました。やはり、野球小説である以上一試合くらいは一回表から九回裏まで書かなくてはと思いましたね。
 中堅高校の阪野第二高校と言えど、強豪校である長谷商業には頭が上がらないと言う大人の現実味のある話も追加しておきました。

16.足りないもの

 クールドライで、他人を受け入れない排他的な市河俊。そこに足りないものを教えようとする主将。その遣り取りなんかも書きたいと思い書きました。
 主人公の秘密の一つ、ポジションの謎も明らかにしました。謎については、3.市河家の食卓で少し触れて複線にしてみたんですが、失敗でしたね。
 ギャンブラー赤星も書きたかったのですが、これではただの自殺行為に過ぎないと言う駄目っぷりでした。

17.負けられない勝負

 これは、まずタイトルに悩みました。結局これにしてうむむ、と言った調子。昔からコピーライトが無いので…。
 どんな瞬間も諦めない事、信じる事。簡単な事ほど、頭では理解するほど実際にやるのは難しいと思います。完全パーフェクトな人間なんていない、それに近い人間はいるけれど、そこから遠い人間にこそ出来るものだってある。ポジティブな強さが勝利を呼び込む、そんな事を試合で表現したかったのです。

18.最良のバッテリー

 試合を書く上で書いておかなければならない内の一つに、現レギュラーピッチャーの実力がありました。天才ではあるけれど、市河俊・爾志浩人ほどに才能の無い赤星・松本バッテリー。足りないものがあるからこそ補い合える。排他的な市河俊には出来ない事でした。
 最強になれなくとも、最も信頼される良いバッテリー。

19.俊足の打者

 ここが試合の佳境。ラストです。やっぱり、おいしいとこ取りかも知れないけれど、そこは主人公。小さい、やせっぽっち、非力。自分の全てが敵になる世界で、唯一見つけた己の最強の武器。
 次に繋ぐと言う事とプレッシャーと信頼。汚名返上と名誉挽回。

20.届かない距離。

 紅白戦では大活躍だった主人公、蜂谷裕。それでも、やっぱり周りの天才と呼ばれる人達に比べれば劣ってしまう。努力だけではどうにもならない壁の存在や自ら抱えた闇の重さ。
 また、随分遅れての初登場のマネージャー、外岡紗枝。マネージャーは彼女一人ではないので、これからも沢山出していきたいのですが、主人公がストイックと言うか、子供なだけと言うか。中々出し辛い。

21.闇

 もがけばもがくほど絡み付く闇の泥沼。自らの抱えた闇にはまって行ってしまう主人公や、支えてくれる人の優しさ。それでも、誰にも抱えた闇を見せようとしない頑固さ。
 第二部へと続く哀しみのカケラ。

22.墓前の誓い

 ここはまったく予想外の話でした。こんなところでライバルである浅賀恭輔を登場させるつもりはありませんでした。とにかく、両親の墓に誓う姿が書きたかったのですが、何時の間にやら浅賀恭輔が誓わせる方向に…。
 今となってはいい思い出です。ここで登場する事でキャラクターも出来てきたし、掴めて来ましたからね。

23.鼠花火

 花火を見てふと思ったので書きました。本当は短編に入れてもよかったかも…。でも、こうした方が話がスムーズに進むのでいいですか。
 書いて思い出したのですが、そう言えば『アイシールド21』でも同じような事を言っていたような…?

24.凶報

 後々続く物語の為にもここで勝ってはつまらなかった訳です。長い間苦汁を嘗めて来た尾崎主将達三年生には気の毒ですが、その思いは後輩がきっと叶えてくれるはずです。
 日本人の死亡原因の一位は自殺だと聞きました。悲しくなります。きっと、傍には誰かいたはず。それに気付けていれば。掴み損なった命の欠片が目の前で失われて行く。弟の瑠にとっては、初めて人の死に直接触れる機会になってしまった訳です。

25.受け継がれる意志

 夢は叶わなかったけど、悔しいけれど、終わってしまったけれど。まだ、終わりたくないのに時間は止まらず流れて行く。その流れに歯向かえない人は、だからこそ後世に思いを託す。
 そんな感じでした。新チームの誕生。代わりにあのチームは二度と揃う事は無い。絶望さえも希望に変えて走り出す。まだまだ、始まったばかり。




※春の甲子園、及び地区予選は一年生が入部する前ですが、物語の都合上変わっています。すみません。